培養皿の中で視神経細胞を作製することに世界で初めて成功
国立成育医療研究センターは2月10日、同センター病院 眼科医長・研究所 視覚科学研究室長の東範行氏の研究チームが、ヒトiPS細胞から、機能する神経線維(軸索)をもつ視神経細胞(網膜神経節細胞)を作製することに、世界で初めて成功したと発表した。この研究成果は、英国の「Scientific Reports」に現地時間2月10日付でオンライン掲載されている。
画像はプレスリリースより
視神経は、網膜にある細胞体(網膜神経節細胞)から伸びる長い神経線維(軸索)によって構成されている。緑内障などの視神経疾患は、軸索に病気が起こるので、視神経疾患の研究においては、長い軸索をもつ網膜神経節細胞を得ることが、どうしても必要だ。
再生医療の分野では、ES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞の研究が進められているが、眼では、最近3次元培養によって、幼若な網膜を作製することが可能となった。その中には神経節細胞が含まれているが、未熟で、神経線維(軸索)はなく、これまで、培養皿の中で長い軸索を作ることは、非常に難しいと考えられてきた。
視神経疾患の原因や病態の解明、診断・治療の研究に貢献
研究チームは今回、ヒトiPS細胞から視神経細胞(網膜神経節細胞)を、培養皿の中で作製することに成功。ヒト皮膚由来のiPS細胞を培養し、外から形態形成遺伝子などを導入することなく、培養条件のみによって、自己的にiPS細胞から網膜神経節細胞に分化させることができる、まったく新しい細胞技術だという。
作製された神経細胞は、1~2cm にも及ぶ長さの神経線維(軸索)をもっていた。そして、視神経細胞(網膜神経節細胞)に特有な構造や蛋白がすべて存在していることが、免疫染色、電子顕微鏡観察、分子生物学的方法によって証明されたとしている。
神経としての機能については、神経線維(軸索)に軸索流(軸索の中のミトコンドリアなどの物質の流れ)がみられ、神経情報伝達の電気生理反応(活動電位、活動電流)があることを確認したそうだ。
このヒト視神経細胞を用いることによって、重篤な視力障害を起こすさまざまな視神経疾患に対して、疾患の原因解明、新規診断法の開発、再生医療、創薬など、新たな医療を展開する可能性が大きく開けると、研究グループは述べている。
▼外部リンク
・国立成育医療研究センター プレスリリース