三次元浮遊培養法により、プルキンエ細胞を分化誘導
理化学研究所は1月30日、ヒトES細胞(胚性幹細胞)を小脳の神経組織へと、高い効率で選択的に分化誘導させることに成功したと発表した。この研究は、同研究所多細胞システム形成研究センター器官発生研究チームの六車恵子専門職研究員を中心とする研究チームによるもの。研究成果は、米国の科学雑誌「Cell Reports」オンライン版に1月29日付けで掲載されている。
画像はプレスリリースより
小脳の神経細胞のひとつであるプルキンエ細胞は、一度損傷するとその機能の修復は非常に困難になり、うまく歩行できなかったり、手が震えたりする小脳性運動失調の症状が現れることがある。同研究チームはこれまでの研究で、多能性幹細胞を効率良く分化できる「無血清凝集浮遊培養法(SFEBq法)」という三次元浮遊培養法を開発し、これを用いてマウスES細胞からプルキンエ細胞を分化誘導することに成功している。
今回、同研究チームはマウスで成功した培養法をヒトES細胞に応用し、プルキンエ細胞の効率的な試験管内での培養法の開発に取り組んでいた。
脳神経疾患に対する再生医療への応用へ期待
SFEBq法は、基本的にヒトES細胞に応用できるが、細かな培養条件は異なる。そこで同研究チームは、小脳神経への分化に影響を与えることなく、細胞凝集塊を安定に形成して神経分化を促進するため、さまざまな培養条件を最適化。その結果、ヒトES細胞から分化したプルキンエ細胞前駆細胞を長期間培養することで、大きな細胞体と樹状突起の伸展を確認したという。電気生理学的な解析でも、この細胞固有の神経活動が測定でき、それが形態的・機能的にも生体とよく似たプルキンエ細胞であることを確認した。
さらに、プルキンエ細胞と顆粒細胞を同一の細胞塊内で分化させ、自己組織化によって脳の神経組織をつくるように培養条件を検討したところ、これらがヒトの妊娠第1三半期に相当する小脳皮質構造を形成することも見いだした。これらの成果は、種々の脳神経疾患に対する再生医療への応用につながるものと考えられる。
研究チームは現在、さまざまな種類の脊髄小脳変性症患者からのiPS細胞(人工多能性幹細胞)の樹立やプルキンエ細胞への分化誘導を試みている。今回の方法を用いて患者由来のiPS細胞からプルキンエ細胞を作製することで、様々な疾患の原因解明や治療法開発・創薬などの研究が加速すると期待できるとしている。
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・理化学研究所 プレスリリース