発声の発達・固定化のメカニズムに聴覚入力の有無の影響は
北海道大学は1月22日、同大大学院生命科学院の森千紘氏と同大学大学院理学研究院・生命科学院の和多和宏准教授らの研究グループが、聴覚に依存しない発声パターン固定化のメカニズムを解明したと発表した。この研究成果は英専門誌「The Journal of Neuroscienc」に、1月21日付で掲載されている。
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ヒトが言語を獲得する発声学習において、聴覚入力は正常な発声パターンの発達・獲得に重要とされてきた。しかし、聴覚入力の有無によって発声の発達・固定化にどの程度の違いが生まれるのか、また脳内の遺伝子発現にどのような影響を与えるかは未解明の部分が多かった。
聴覚入力よりも発声運動出力が重要との結果に
今回研究グループは、発声学習の動物モデルとして神経科学研究で長く用いられてきた「ソングバード」で、聴覚除去個体を作製。手本となる親鳥の歌や自分の声が聞こえない状態で、どのように発声パターンの発達が起こるのかを詳細に解析した。また、DNAマイクロアレイを用いて、発声学習・生成に関わる脳部位(運動野)における遺伝子群の発現変動が、個体発達と発声発達のどちらの影響を強く受けるのかを検証した。
その結果、聴覚入力がなくても、個体発達に伴って歌パターンが変化すること、また正常個体よりも3倍の日数をかけて、最終的に歌が固定化することが分かったという。このような正常個体と聴覚除去個体間での歌発達の大きな違いがあるにも関わらず、発声学習・生成に関わる脳部位における遺伝子群の発現変化は、発達過程を通じて非常に似ていることが明らかになった。この聴覚に依存しない脳内遺伝子発現動態は、聴覚入力よりも発声運動出力が発声学習臨界期中の脳内遺伝子発現に影響を与えていることを示唆しているという。つまりは、発声学習・生成に関わる脳内遺伝子発現の動態制御には、「どれだけ聴くか」よりも、「どれだけ声を出すか」が重要ではないかと考えられるとしている。
今回の研究結果は、耳が聞こえなくても個体発達過程で発声パターンは変化し、通常よりも時間がかかるが発声パターンが固定化する時期が訪れることを示唆しており、聴覚入力の有無は関係なく、発声可塑性が年齢のある時期で消失することを意味する。この結果について研究グループは、難聴者の人工内耳手術の時期を考える上でも重要なエビデンスになるとしている。
▼外部リンク
・北海道大学 プレスリリース