神経変性疾患での脳内異常タンパク質凝集の形成機構解明に期待
京都大学は1月21日、同大工学研究科の白川昌宏教授らの研究グループが、ユビキチンがポリマー(ポリユビキチン鎖)を形成することにより熱力学的に不安定化することを見出し、さらにアミロイド様線維を含む凝集体を形成することを明らかにしたと発表した。この研究成果は、1月20日付の英科学誌「Nature Communications」で公開されている。
画像はリリースより
高齢化が深刻化する現代社会において、アルツハイマー病等の神経変性疾患は社会問題であり、発症機構解明と治療法開発は急務である。しかし、病変所見で確認される脳内の異常タンパク質凝集体形成は、発見以来100年間、その形成機構が未解明のままだ。
さらに、これらの脳内凝集体の多くは共通して、ユビキチンを含むことが確認されている。ユビキチンは、細胞内タンパク質に鎖状に共有結合し、その機能や寿命を制御する翻訳後修飾因子の一つだが、物理的・化学的に極めて安定なタンパク質として知られている。したがって、ユビキチンがなぜ細胞内で凝集体を形成するのかは現在も解明されていない。
神経変性疾患の弧発性を説明する一つの材料に
そこで研究グループは、この謎を解明すべく、物理化学的および細胞生物学的解析を実施。熱力学的手法を用いて、ユビキチンならびにポリユビキチン鎖の安定性を評価した。
その結果、ポリユビキチン鎖は、その鎖の長さ依存的に熱力学的に不安定化することが判明。加えて、熱変性や微弱な力学的応力により、ポリユビキチン鎖はアミロイド様線維を含む凝集体を形成することも明らかにした。また、細胞内でも鎖長依存的な凝集体形成を観察することができ、さらにこの凝集体は細胞内タンパク質分解機構オートファジーにより選択的に分解されることも分かったという。
多くの神経変性疾患は弧発性疾患であり、ユビキチンはあらゆる細胞・組織に存在し、ポリユビキチン鎖も同様に存在する。つまり、今回の研究で解明したポリユビキチン鎖の凝集体形成は、あらゆる細胞、あらゆる組織で起こりうる現象であり、これらの知見が神経変性疾患の弧発性を説明する一つの材料となり得ると期待されている。
今後は、ポリユビキチン鎖がどのように細胞内で凝集体を形成するのか、そしてこれらの凝集体形成が神経変性疾患の発症にどのように関与するのかについて解明していくという。また、ポリユビキチン鎖線維はどのような高次構造を形成しているか、原子レベルで解明したいと研究グループは述べている。
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・京都大学 研究成果