不明だったがん抑制遺伝子p53の失活に関するメカニズム
国立がん研究センターは1月20日、肺がんの悪性化に関わる新たな分子メカニズムを明らかにしたと発表した。この研究は、同センター研究所難治進行がん研究分野の江成政人ユニット長らを中心とした研究グループによるもの。研究成果は、米国科学アカデミー紀要「PNAS」に発表されている。
画像はプレスリリースより
これまでの研究から、肺がんの進展には肺がん細胞やその周囲の間質細胞におけるがん抑制遺伝子p53の失活が関与していることが示唆されていたが、その詳細な分子メカニズムは不明なままだった。そこで同研究グループは、肺がん進展過程における肺がんと間質の相互作用に着目。がん進展に関わる分子メカニズムを解明することを目的として研究を行ってきた。
有用な治療標的となり得るTSPAN12とCXCL6
研究グループは、肺がん細胞から分泌される因子によって、がん周辺間質の主要な細胞である線維芽細胞のがん抑制因子p53の発現が抑制されることを発見。そして、この線維芽細胞はp53発現低下によって、活性化型の線維芽細胞に似た形質を獲得することが明らかになったという。
さらに、抑制因子p53発現が低下した線維芽細胞では、TSPAN12(テトラスパニン12)というたんぱく質が発現し、線維芽細胞とがん細胞との細胞間接触依存的に肺がん細胞の浸潤能及び増殖能を促進していることが分かったという。このTSPAN12は、分泌性因子であるCXCL6の発現を誘導するが、これらも肺がん細胞との相互作用により増殖能や浸潤能が増加し、肺がん進展に協調的に働くことが判明したとしている。
これらの結果から、今後、TSPAN12及びCXCL6はがん周辺の間質の有用な治療標的となり得ると考えられ、これらのたんぱく質に対する抗体、ペプチド、低分子化合物等が、既存の抗がん剤との併用で治療効果をもたらすことが期待される。
▼外部リンク
・国立がん研究センター プレスリリース