■創薬支援シンポで討論
医薬基盤研究所等が主催する創薬支援ネットワークシンポジウムが16日、大阪市内で開かれ、パネル討論では、創薬立国に向けた産業界、アカデミアの理解ギャップを解消するための方策が議論された。製薬企業側からは、創薬の根幹である知的財産の重要性が指摘され、国家的な特許戦略の強化が問題提起された。
日本製薬団体連合会の野木森雅郁会長(アステラス製薬会長)は、新薬創出の生産性が10年前に比べて7割以上も低下していることを指摘。アカデミアの独創性を創薬に生かすため、成熟した連携の仕組みが必要とし、知財に対する価値観の違いを一つの課題に挙げた。
アカデミアは出口戦略にこだわらないのに対し、製薬企業は出口戦略が明確な特許を求めるとした上で、創薬シーズが不足する中、「日本発のパイプラインを絶やさないために、アカデミア発のシーズインプットが必要」と述べ、自社資源をオープン化する新しい形のオープンイノベーションを進めていく必要があると提言した。
塩野義製薬の手代木功社長は、「知財について産業界、ベンチャー、アカデミアがより共通の認識を持つ必要がある」と強調。「日本でも特許切れによる後発品の影響が年々大きくなってきている」との認識を示した。日米の産学連携による特許の状況について、ライセンス収入は米国の100分の1、製品化件数は約5分の1と大きく水をあけられているデータを示し、「出願した特許の質に問題があるのでは」と問題提起した。
その上で、日本では、長期的な知財戦略の欠如、知財人材の不足、知財の維持管理に必要な費用負担が課題になっているとし、「創薬は国家を挙げての事業であり、もう少し知財について国全体で考えなければ、国力につながらない」と訴え、強力な知財戦略が創薬立国のカギになるとした。
討論で、がん研究所の野田哲生所長は、「アカデミアのシーズは十分あるが、知財の段階で流れてしまっている。研究者が我慢して論文を書かず、出口戦略を考える方向は社会に根づかない。リスクを取りながら報酬を得る役割を誰が担うのか、大きな図式がないと研究者一人ひとりのレベルでは難しい」と研究者の立場を代弁した。
先端医療振興財団臨床研究情報センター長の福島雅典氏は、「アカデミアと産業界のギャップは当然で、大学等は特許で稼ぐことを考えておらず、そもそも目的が違う」と強調した。
また野木森氏は、医薬品業界の特許は「他業界に比べて一つの特許の重みが違う」と指摘。手代木氏も、他業界と異なるライフサイエンスに合った特許取得を支援するチームが必要と訴えた。