求められていた低コストで簡易な認知行動療法
東京大学大学院は1月13日、医学系研究科の川上憲人教授と今村幸太郎特任研究員が、マンガを使った認知行動療法eラーニングにより、働く人のうつ病を5分の1に減らすことに成功したと発表した。この成果は英専門誌「Psychological Medicine」に掲載される予定だという。
画像はプレスリリースより
うつ病など働く人の心の健康問題(メンタルヘルス不調)の増加は、大きな社会問題となっている。これまでメンタルヘルス不調の従業員への相談対応や職場復帰の支援が行われてきたが、最近ではその予防に関心が高まっている。以前から個人向けのストレスマネジメントは、従業員のストレスや気分を改善することがわかっていたが、うつ病を予防できるかどうかを調べた研究は行われたことがなかった。
一方、これまでに一対一の対面や集団での認知行動療法によって、うつ病のリスクが30%程度減少することが報告されていた。しかし、対面や集団での認知行動療法を提供するにはコストがかかり、多数の従業員に広く提供することは困難だった。そのため、低コストで簡易に認知行動療法を提供できる方法が求められていた。
全6回、毎週1回の講義と宿題で構成
そこで、川上教授らは、日本の労働者を対象としたインターネット認知行動療法(iCBT)eラーニングプログラムを独自に開発した。このiCBTプログラムは、認知行動療法に基づくストレス対処の方法をマンガで提供するもの。全6回で、毎週1回の講義と宿題で構成され、学習は宿題も含めて1回30分程度だという。
今回、このプログラムにうつ病を予防する効果があるかどうかを、無作為化比較試験(RCT)の終了後6か月時点(初回調査から12か月時点)において追跡調査を実施。IT系企業の従業員のうちランダムに選ばれた381人にこのeラーニングを提供し、視聴を促した。その結果、調査期間後に遅れてeラーニングを提供した同数の従業員にくらべて、1年間のうつ病の発症率が5分の1に減少することを見出したという。
この成果や今後の研究をきっかけに、うつ病予防のためのeラーニングが広く企業に導入されることで、働く人の心の健康が大きく向上することが期待される。研究チームでは今後、現在のeラーニングを改良し、さらに大規模なRCTによってその効果を確認するとともに、認知行動療法を用いたeラーニングが、働く人のポジティブなメンタルヘルスや生産性に与える効果についても、研究を進めていく予定だとしている。
▼外部リンク
・東京大学大学院 医学系研究科・医学部 プレスリリース