受動免疫の有望なプロトタイプとなるか
大阪市立大学は1月9日、同大医学研究科脳神経学の富山貴美准教授ら研究グループが、過剰にリン酸化されたタウに結合して、これを除去する新しい抗体を開発したと発表した。
画像はプレスリリースより
アルツハイマー病の治療薬は、これまでは主にアミロイドβを標的とする薬が開発されてきたが、臨床試験で有効性が確認されたものはまだない。今回開発された抗体は、他の抗体と比べて高い治療効果を示すことから、受動免疫の有望なプロトタイプとなると考えられている。
なお同研究の成果は、米国神経学協会のオープンアクセスジャーナル「Clinical and Translational Neurology」に1月9日付けでオンライン掲載されている。
アルツハイマー病の脳に蓄積する異常タウにのみ反応
今回、研究グループはタウ分子内のどのリン酸化が、病気の進行とより強く相関しているかをモデルマウスの脳で調査。その結果、これまでそれほど調べられていなかった413番目のアミノ酸(セリン)のリン酸化が重要であることを突き止め、これに選択的に結合するモノクローナル抗体を作製したという。
この抗体(Ta1505)をモデルマウスに1週間に1回、1回1mgを計5回、1か月間腹腔内投与すると、脳の過剰リン酸化されたタウが減少。神経細胞間のシナプスが回復して、マウスの記憶障害も改善した。さらに、神経原線維変化や神経細胞死も抑制されたという。
これらの効果は、コントロールとして作製した別のリン酸化部位に結合する抗体の効果よりも強いものであり、この抗体は正常なタウには反応せず、アルツハイマー病の脳に蓄積する異常タウにのみ反応することも判明。これら研究結果から、リン酸化された413番目のセリンがタウの免疫療法において有望な標的となること、抗体がタウ標的薬の有力なプロトタイプとなることを示している。
今回開発されたモノクローナル抗体はマウス由来のため、ヒトで使用するには、まずこの抗体を遺伝子工学的手法によってヒト化する必要がある。その上で行われる臨床試験は、大手製薬企業との共同開発を目指すとしている。(大場真代)
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・大阪市立大学 プレスリリース