がんニッチ形成機構の一端を解明
九州大学は1月3日、同大生体防御医学研究所の中山敬一主幹教授らの研究チームが、がんニッチを制御する重要なたんぱく質である「Fbxw7」を発見し、既存薬であるプロパゲルマニウム(CCL2阻害剤)によって、がん転移を強力に抑制することに成功したと発表した。
画像はプレスリリースより
がん細胞の周囲には、「がんニッチ」と呼ばれる細胞群が存在し、がん細胞の生存や増殖、転移をサポートしていることが知られている。なかでも血液由来の「線維芽細胞」や「単球細胞」は、がんニッチの構成因子として重要とされ、がん治療においては、がん細胞だけでなく、このがんニッチも同時に消滅させる必要があるとされていた。しかし、どのようなメカニズムでこのがんニッチが形成されるかについては、未解明な部分が多かったという。
肝炎治療薬のプロパゲルマニウムで転移を抑制
がんで多く変異が見つかっているFbxw7は、体質的に分子量が高い人と低い人がいるという。同研究チームはこのFbxw7に着目し、乳がん患者の血液細胞を調べたところ、Fbxw7の発現量が低い人はがんが再発しやすくなることを発見した。また、ヒトと同じように、Fbxw7を人工的に欠損させたマウスで調べると、がんの転移が起こりやすくなることを見出したという。
さらに、Fbxw7が低い状態では、がん周囲にいる線維芽細胞から「CCL2」と呼ばれるたんぱく質が過剰に分泌され、それががん細胞の周りに単球細胞を異常に呼び寄せて、がんニッチを作り上げていることが判明した。
研究グループは、このCCL2の働きを抑制することで、がんニッチを消滅させることが期待できると考え、マウスにCCL2阻害剤であるプロパゲルマニウムを投与。その結果単球細胞の集積がみられなくなり、転移先でのがん細胞の増殖が抑えられたという。
プロパゲルマニウムは、既に肝炎治療薬としてヒトに使用されおり、研究チームは今後、同剤が実際にがん患者に対して転移抑制効果を持つかどうか治験を進めていく予定だという。(遠藤るりこ)
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・九州大学 プレスリリース