生命の進化に類似したがん細胞のゲノムDNA複製
群馬大学は12月17日、DNA再複製の新しい分子機構が明らかになったと発表した。この研究は、同大生体調節研究所の山下孝之教授らのグループと、学習院大学理学部生命学科の花岡文雄教授との共同研究によるもの。この研究の成果は、12月8日付けの米学術専門誌「モルキュラー・アンド・セルラー・バイオロジー (Molecular and Cellular Biology)」(電子版)に掲載されている。
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がん最大の原因は、がん細胞のゲノムDNAが絶えず変異を繰り返して遺伝的多様性を獲得し、治療抵抗性を持つ「強者」が選択されていくことにある。環境に対して生存能力の高い細胞が選択されるというのは、生命が地球という生命体において変異と選択を続けて生き残ってきた「進化」に類似しているという。この「進化」を続けることで、がん細胞のDNAは生き残るが、このゲノムDNAの過剰な複製に関する分子機構については、十分解明されていなかったという。
Y-Polの働きを調節する、新たながん治療に期待
今回、同研究グループは正常細胞のDNA複製に関与の少ない複製酵素グループであるYファミリー・ポリメラーゼ(Y-Pol)が、がん細胞における再複製に重要な役割を果たしていることを発見した。
まず、蛍光タンパクGFPで標識したY-Pol のひとつ「Polη」の局在を解析。DNA再複製を起こしたモデル細胞において、核内のDNA複製部位に集積したが、このような現象は正常のDNA複製ではほとんど認められなかった。この結果は、他のY-Polについても得られたという。
次の実験では、Polηタンパクを細胞内から除去するとDNA再複製が抑制されることを示す結果が得られ、PolηがDNA再複製に関与することが判った。正常のDNA複製でこのような影響は観察されず、他のY-Polについても同様の結果が得られたという。
さらに、サイクリンEという発がん遺伝子が引き起こすDNA再複製について、同様の解析を行ったところ、やはり再複製部位にY-Polが集積し、Y-Polの除去によって再複製が抑制された。これらの結果は、正常DNA複製への関与の乏しいY-Polが、がん細胞におけるDNA再複製において重要な役割を果たすことを示すとしている。
以上により、がん細胞のゲノム不安定性において重要な役割を果たすDNA再複製の新しい分子機構が明らかになった。これは、がん細胞の「進化」メカニズムへの理解を深めるのに重要な知見であると考えられる。今後、このY-Polの働きを調節することにより、新しいコンセプトのがん治療へ道が開かれることが期待される。(遠藤るりこ)
▼外部リンク
・群馬大学 プレスリリース