生命の進化に類似したがん細胞のゲノムDNA複製
慶應義塾大学は12月23日、ヒトの皮膚細胞を血管内皮細胞に転換する遺伝子を同定したと発表した。この研究は、同大学医学部微生物学・免疫学教室の森田林平専任講師と吉村昭彦教授らが、久留米大学医学部心臓・血管内科学の安川秀雄准教授、佐々木健一郎講師と行った共同研究によるもの。米科学雑誌「アメリカ科学アカデミー紀要」オンライン速報版に、12月24日付けで公開されている。
画像はプレスリリースより
血管は、組織細部に酸素や栄養等を運搬する生命の維持に極めて重要な器官。生活習慣病等による血管障害に対しては、血管内皮細胞の移植が有効な治療法とされている。しかし、治療に必要な細胞数を確保するには骨髄液やG-CSF投与後の末梢血から精製分離する必要があり、基礎疾患の重症度によっては採取自体が困難となる場合もある。そのため、試験管内での分化誘導による血管内皮細胞の作製は重要な課題とされてきた。
より安全で安定的な血管内皮細胞の開発へ
血管内皮細胞は、発生の初期に、血液細胞と共通の前駆細胞から作られる。そこで今回、同研究グループは、血管内皮細胞の発生に重要な18種類の候補転写因子をスクリーニング対象としてヒト皮膚線維芽細胞に導入し、血管内皮細胞に直接転換させる因子を探索した。その結果、たった一つの遺伝子ETV2を導入することで、ヒト皮膚線維芽細胞を機能的な血管内皮細胞に転換できることを見出したという。
これまでにもヒト皮膚線維芽細胞や羊水細胞に複数の転写因子を導入することで血管内皮細胞に転換できることが報告されてきたが、この方法は、たった1つの遺伝子を導入することにより血管内皮細胞を作製することが可能だ。これよって、高い効率と安全性を保つことができ、虚血性疾患に関する血管新生療法への新たな細胞ソースの開発につながることが期待されている。
また、現在iPS細胞等を用い、肝臓や腸管など立体臓器の再生も試みられているが、細胞レベルの再生と異なり、臓器の作成・維持には血管網の付与が必須だ。そのため、血管再生は臓器再生の成功を導く重要な条件の一つと考えられており、今回の研究結果は、血管新生療法と臓器再生のためのより安全な血管内皮細胞の開発につながるものと期待されている。(遠藤るりこ)
▼外部リンク
・慶応大学 プレスリリース