便秘症の治療薬が腎臓病の治療薬になる可能性
東北大学は12月17日、同大大学院医学系研究科および医工学研究科病態液性制御学分野の阿部高明教授らが、慶應義塾大学先端生命科学研究所の福田真嗣特任准教授、曽我朋義教授らの研究グループとともに、便秘症の治療薬として使用されるルビプロストンに慢性腎臓病の進行を抑える効果があることを発見したと発表した。この研究成果は、米国腎臓学会学術誌「Journal of the American Society of Nephrology」電子版に12月19日付で掲載されている。
画像はプレスリリースより
腎臓の機能が低下した慢性腎臓病の状態では、尿として排泄されるべき種々の「尿毒素」が適切に排泄されず、血中に蓄積する。これが腎臓や心臓・脳など各種臓器に悪影響を与えて尿毒症となるが、この症状を軽減させることが腎臓病の進行を抑制する手段として期待されてきた。
また、これまでの研究で、尿毒素のうち最も悪い作用をするといわれるインドキシル硫酸などの産生には腸内細菌叢が関わっており、さらに、慢性腎臓病では腸内環境全体が悪い方向に変化していることも明らかになっていた。これらの背景から研究チームは、慢性腎臓病の新しい治療ターゲットとして、腸内環境および腸内細菌叢に注目して研究を続けてきたという。
腸内環境改善による腎臓病治療法の開発
同研究では腸内環境を変化させる薬剤として、ルビプロストンの効果を検討。同剤は腸管内のクロライドチャネルを活性化させ腸液の分泌を増加させる作用があり、腸管内容物の移動を促進させることから便秘症の治療薬として使用されている。
研究チームは慢性腎不全の状態にしたマウスにルビプロストンを投与し、腎臓病の進行が抑制されるかを検証。その結果、ルビプロストンを投与していないマウスに比べて腸液の分泌が増加し、腎不全時における腸壁の悪化が改善したという。また、腸内細菌叢の解析を行ったところ、ラクトバシラスやプレボテラなどの善玉菌の減少が改善していることが明らかになった。さらに、尿毒素などの代謝物濃度を網羅的に測定した結果、インドキシル硫酸や馬尿酸といった物質の血中濃度が減少していたという。これらの結果から、ルビプロストンは腸内環境・腸内細菌叢の変化を介して尿毒素の蓄積を減少させ、慢性腎臓病の進行を抑制すると考えられる。
研究グループは今後、副作用の少ない低容量かつ腸で溶ける製剤の開発やルビプロストンの効果がある腎不全患者の選び方などの検討などを行い、実際の腎臓病患者への治療薬として使用できるように研究を継続するとしている。(横山香織)
▼外部リンク
・東北大学 プレスリリース