コミュニケーション困難の一因の可能性
京都大学は12月19日、同大霊長類研究所の正高信男教授らの研究グループが、自閉症の児童は表情のよみとりが苦手であることを発見したと発表した。
画像はプレスリリースより
これは、学業には困難がないものの、人とのやりとりが苦手な自閉症の小学生20名(平均年齢:9歳)を対象に、たくさんの顔の中から1つだけ特別な表情をしているものを探し出すという「ウオーリーをさがせ」のような課題を行い、成績を定型発達の子どもと比較するという研究によるもの。報告によると、定型発達児では、見つけ出す顔が怒り顔の場合、非常にすばやく見つけ出せるのに対し、自閉症の児童では、怒り顔でもすばやく見つけ出すことが困難なことが判明したという。なお、同研究成果は、英科学雑誌「Scientific Reports」誌に12月18日付で掲載されている。
自閉症の子どもは、他人とコミュニケーションをとるのに困難があることは知られているが、その原因は「他者の心情を理解することができない」といった、高次な認識や推論に問題があると考えられてきた。正高教授の研究グループは、そのアプローチとは反対に、自閉症の子どもでは基本的な表情のよみとりが苦手であることが、他人とのスムースな交渉を阻害しているのではないかと考え、今回の研究を行ったという。
幼少の子どもの障害の診断、療育の手段として応用に期待
同研究グループは、線画でえがかれた顔をいくつも同時にコンピュータの画面に提示。ほとんどは無表情の顔だが、そのうちひとつだけ特別な表情をしたものがある。対象の子どもたちには、その特別な表情をできるだけ早くみつけだし、手で触れてもらった。表情は二通り用意されており、ひとつは柔和なもの、もうひとつは怒り顔である。
定型発達児と自閉症の子どもで、この二つの表情の顔を見つけ出すスピードを計測したところ、定型発達児では怒り顔のときにより素早くみつけだすことが判明した。ところが自閉症の子どもでは、怒り顔でとくに成績が向上することがなかったという。怒り顔は向けられた者にとっては身の安全を脅かす信号なので、それに対し迅速に対処しようとすることは生物としてきわめて適応的な反応であり、その情報処理はほとんど意識下でなされるものと考えられる。ところが自閉症の子どもでは、そういう表情を意識下でよみとり、状況ごとに対応を変化させる柔軟性がとぼしいことが判明したとしている。
今回の研究成果では、自閉症の子どもが経験するコミュニケーションの困難に関する新たな一因が示唆された。これにより幼少期の障害の診断、あるいは療育の手段として応用が期待できる。研究グループは今後、より小さな子どもでの研究と、生理指標を用いた計測を行う予定としている。(横山香織)
▼外部リンク
・京都大学 研究成果