必要とされていた診断薬への応用に期待
横浜市立大学 先端医科学研究センターは12月3日、同大学 大学院生命医科学研究科 生体機能医科学の竹居光太郎教授、医学研究科 神経内科・脳卒中医学の田中章景教授、高橋慶太医師らの研究グループが、神経回路形成因子であるLOTUSが、国の指定難病のひとつである多発性硬化症の病勢に従い脳脊髄液中で顕著に変動することを発見したと発表した。なお、この研究結果は、米国医師会雑誌「JAMA Neurology」オンライン版に12月1日付で掲載されている。
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多発性硬化症は再発を頻繁に繰り返す疾患のため、再発時の早期診断・早期治療が病態を進行させないために重要だ。しかし、再発の診断において、血液・脳脊髄液ともに信頼性の高いバイオマーカーはまだない。現在、再発診断は臨床症候に加え、主に造影MRI 検査で判断されているが、MRI 検査のできる施設は限られ、緊急での検査が出来ないことも少なくない。従って、臨床症候に基づく医師の判断に委ねられることも多く、簡易に検査のできる血液・脳脊髄液のバイオマーカーなどの客観的指標が必要とされている。
また、病態を反映するバイオマーカーがないことが、病気の原因の解明や治療分野の発展を妨げる一因となっており、この点においてもバイオマーカーの開発が重要な課題となっていた。
多発性硬化症の患者、LOTUS 濃度が著明に低下
今回研究で注目したLOTUSとは、神経回路形成に係る機能分子で、内在性のNogo 受容体アンタゴニスト(拮抗物質)として機能する。Nogo 受容体は、神経が障害された後の神経再生を阻む分子として知られ、多発性硬化症の病態・病勢と機能的関連が近年注目されている。そこで研究グループは、Nogo 受容体と同様に、LOTUSが多発性硬化症の病態・病勢と関連があるのではないかと想定したという。
同研究グループはまず、ウェスタンブロッティング法と質量分析法を用いてヒトの脳脊髄液からLOTUS を検出・同定することに成功。そして、脳脊髄液中のLOTUS濃度を測定する方法を確立し、健常人、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、多系統萎縮症の患者の脳脊髄液でLOTUS 濃度を比較した。
その結果、多発性硬化症の患者ではLOTUS 濃度が著明に低下していることを発見。また、同疾患の患者を再発期、寛解期、二次進行期の3つの病期に分けてLOTUS濃度の解析を行ったところ、再発期にはLOTUS濃度は著明に低下していたが、寛解期には健常人と同程度まで改善。さらに、二次進行期では明らかな再発がなくともLOTUS濃度の低下が認められたという。これらの結果より、LOTUS濃度が多発性硬化症の病勢に一致して変動することが示されたとしている。
この研究結果は、多発性硬化症の再発や神経障害の進行を早期に診断できるバイオマーカーとして臨床応用され、早期治療や新たな治療戦略の発展に貢献、さらに病態解明へ繋がると期待されている。(横山香織)
▼外部リンク
・横浜市立大学 先端医科学研究センター 研究成果