グリア細胞の機能不全がうつ病に似た症状を引き起こす
東京医科歯科大学・難治疾患研究所・分子神経科学分野の田中光一教授と相澤秀紀教授の研究グループは12月3日、自治医科大学、九州大学、玉川大学との共同研究により、脳の一部に存在するグリア細胞の機能不全が、うつ病の症状に似た行動異常および睡眠障害を引き起こすことを発見したと発表した。
画像はプレスリリースより
この研究は、文部科学省脳科学研究戦略推進プログラムの一環として実施され、新学術領域研究ならびに科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業支援のもと行われた。この研究結果は、米科学誌「Journal of Neuroscience」オンライン版で発表されている。
人間の脳は主に神経細胞とグリア細胞によって構成されているが、その機能や役割は未だ不明な点が多い。グリア細胞の一種であるアストロサイトはGLT-1という遺伝子を発現し、興奮性の神経伝達物質であるグルタミン酸の代謝を介して、脳の興奮性を調節する。しかし、このようなグリア細胞機能の重要性がわかっているにも関わらず、その精神・神経疾患における役割の解明はされていなかった。
遺伝子操作したマウスの神経活動を調査
今回の研究では、手綱核と呼ばれる脳部位のグリア細胞に注目。マウスの行動や睡眠への影響を調べた。まず、アストロサイトが発現するGLT-1遺伝子の欠損マウスと、優先的にアストロサイトで遺伝子改変を引き起こすウイルスベクターを新たに開発。これらを組み合わせ、手綱核のグリア細胞のみを遺伝子操作することを可能にした。
このように遺伝子操作したマウスの神経活動を調べると、手綱核の神経細胞の発火率が上昇して興奮が過剰な状態にあり、脳幹部のセロトニンおよびドーパミン産生細胞の活動性が抑えられていることが分かったという。さらに、これらのマウスは、正常なマウスに比べてストレス下における絶望状態や不安様行動、社会回避行動など、うつ病の症状に似た行動異常を頻繁に示すことがわかったとしている。また、今回作製したマウスでは、うつ病で多く報告されている睡眠障害を引き起こす可能性も示唆されたという。
今後、既存および新規抗うつ薬の作用機序におけるグリア細胞の機能を明らかにできれば、副作用が少なく、即効性のある抗うつ薬の開発が期待できるとしている。(遠藤るりこ)
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・東京医科歯科大学 プレスリリース