専門的緩和ケアは、[1]がん診療拠点病院の緩和ケアチーム[2]緩和ケア病棟[3]在宅緩和ケア――の三つの形態で提供されている。木澤氏は、これらでカバーしているのはがん患者の約35%に過ぎず、「約65%は専門的な緩和ケアを受けていない」と述べ、その拡充を求めた。
また、認知度の低さや緩和ケアに対する心理的バリアから、専門的緩和ケアが十分に利用されていない可能性があるとし、患者や家族に緩和ケアを正しく理解してもらうことも必要と指摘した。
一方、緩和ケアに対する診療報酬上の評価が設けられたり、がん対策基本法を背景にがん診療拠点病院への緩和ケアチームの設置が進められたりするなど「緩和ケアが国家施策に盛り込まれるのは世界でもかなり珍しい」と言及。「日本における緩和ケア病棟、緩和ケアチームの発展は国際標準かそれ以上だと考えられる。特に、緩和ケアチームの発展は世界で一番スピードが速い」と評価した。
このほか木澤氏は、緩和ケアのエビデンスについて、2010年にニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに掲載された米国の研究成果を紹介した。
肺がん患者を、診断時から標準治療を実施した群と、それに加えて緩和ケアを実施した群に分けて比較したところ、緩和ケア併用群ではQOLは明らかに向上し、生命予後も2・7カ月延長した。痛みやつらさ、副作用のへの対処が十分に行われたために化学療法を受ける時間が延びたほか、最期まで化学療法を受けるのでなく適切な時期に中止できたことが、予後に影響したと考えられるという。
「治療医にとっては非常にびっくりする数字だった。ものすごく大きなインパクトがあった。緩和ケアを早期から実践すると、QOLも予後に改善する可能性があることが、近年定説になっている」と語った。
木澤氏は「緩和ケアは看取り、終末期のイメージが強いが、それプラス、苦痛や苦悩を緩和するもの。病気の時期を問わず、早期から予防的に介入するというのが国際標準になっている」と強調。「これから先の見通しが立たなくなって、今まで歩いてきた人生の物語を書き換えるような苦難に出合う患者さんに付き合ってQOLを上げるのが緩和ケアの役割。看取るというより、生きることを支えるのが緩和ケアの重要な役割だと理解している」と話した。