情報混線を防ぎ、2つの役割を担う
名古屋大学は10月31日、2つの役割を担うホルモンが血液中での情報混線を防いでいる仕組みを解明したと発表した。
画像はプレスリリースより
この研究は、同大トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)の吉村崇教授と池上啓介博士(現・近畿大学医学部助教)らの研究グループが、シカゴ大学医学部のSamuel Refetoff教授らと共同で行ったもの。この成果は、米科学誌「Cell Reports」電子版に10月30日付で掲載されている。
熱帯地域以外に生息する動物は、日照時間の変化をカレンダーとして利用し、季節による環境の変化に適応しているといわれている。しかし、動物が季節を感じる仕組みはこれまで謎に包まれていた。
同研究グループはこれまでの研究で、下垂体の付け根にある下垂体隆起葉から甲状腺刺激ホルモン(TSH)が分泌され、これが脳に対して春を告げるという働きかけを行うことを明らかにしていた。
異なるホルモンによって制御されるTSH
今回の研究では、前葉と隆起葉で合成・分泌されるTSHの制御機構について、ノックアウトマウスを用いて検討。その結果、前葉のTSHは、視床下部から分泌される甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)に制御されていたが、隆起葉のTSHは夜間に松果体から分泌されるメラトニンによって制御されていることが確認されたという。
次に、血中に分泌されるTSHを測定したところ、前葉のTSH(PD-TSH)だけでなく、隆起葉のTSH(PT-TSH)も血中に分泌されることが判明した。しかし、隆起葉のTSHは、血中に分泌されても生理活性を持たず、甲状腺を刺激できないことが明らかになったという。
隆起葉のTSHは免疫グロブリンやアルブミンにトラップされ「マクロTSH」を形成
そこで、それぞれのTSHの構造を調べたところ、タンパク質そのものに違いはなく、TSHに結合している糖鎖構造が異なることを見出した。糖鎖修飾は、タンパク質ホルモンの半減期や生理活性に影響を及ぼすため、それらについて検討したところ、隆起葉のTSHは前葉のTSHに比べて長い半減期を有し、タンパク質としての高い安定性を持つことが分かった。しかし、ホルモンそのものが持つ生理活性については、2つのTSHの間に違いはなかったとしている。
その原因を調べたところ、隆起葉のTSHは血中に分泌されると、その糖鎖構造を認識する免疫グロブリンやアルブミンにトラップされることで「マクロTSH」と呼ばれる複合体を形成、活性化を失い、体内で情報の混線を防いでいることが判明したという。
1つのホルモンが2つの役割を演じることが判明した今回の研究結果は、TSHの糖鎖修飾異常がみられる中枢性甲状腺機能低下症の解明に寄与することが期待されるという。
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・名古屋大学 プレスリリース