ピオット氏「このアウトブレイクは誰も予想しなかった」
公益社団法人グローバルヘルス技術基金(GHIT Fund)は10月30日、東京でメディアセミナー「エボラ出血熱やその他の感染症への対応と新薬開発の課題」を開催。ロンドン大学衛生熱帯医学大学院学長でGHIT Fund理事のピーター・ピオッド氏が講演した。
ロンドン大学衛生熱帯医学大学院学長
ピーター・ピオット氏
ピオット氏は、1976年にザイール(現コンゴ民主共和国)で発見されたエボラウイルスの共同発見者であり、感染症の世界的権威。西アフリカ地域での大規模なアウトブレイク、米国内での感染者の確認により、世界的な脅威として認識されるエボラ出血熱についてと、世界、日本における熱帯病蔓延の予防と対応について語った。
ピオット氏は、「私は、数十年前にザイールで起こったアウトブレイクを調べに行きました。1976年以降、25件のアウトブレイクがありましたが、どれも数か月以内、300~350名ほどの死者で封じ込められていました。しかし、今回のアウトブレイクは、これまでの中央アフリカではなく、西アフリカで発生しました。この最大規模のアウトブレイクは誰も予想しなかったものです」と語り、今回の大流行が専門家の間でも予想だにしない出来事であったことを明かした。
また、「今回の大流行の背景には、流行国が内戦国であるリベリアやシエラレオネ、独裁制だったギニアという、政府や医療インフラが機能していなかった国であったことがあります。例えばリベリアでは、内戦の影響で、2010年の時点で医師は50人しかいませんでした。これは10万人に対して1人の医師しかいないということ。そのため、初動がうまくいかなかったのです。一方、セネガル、ナイジェリア、コンゴでは、単純な隔離、ケアの提供、接触者の権益対策で制圧できました。エボラウイルスを封じ込めることはたやすいですが、初動対応を誤るとコントロールできなくなります」と語り、今回、大流行の中心となった各国が抱える政治的な問題点を指摘した。
途上国にも先進国で生み出されたイノベーションを
グローバル化した現代、エボラ出血熱などの感染症は、たとえ何千キロ離れていてもそのリスクにさらされる状況にあるといえる。現にスペインやアメリカで、エボラ出血熱患者が確認されている。これについてピオット氏は「今の時代では避けられない状態です。国境を封鎖したり、乗客をスクリーニングしたりしても防げません。(流行が始まった)西アフリカでの流行を制圧しなければならないのです」。また日本も同様に、感染症のリスクが低い国ではあるが、それでもリスクにさらされる可能性はあるとピオット氏は語った。
エボラ出血熱以外の感染症では、「マラリアやHIVなどは、サブサハラアフリカ地域での主な死因となっています。これは一部のアジアでも同じ状況です。しかし、HIVは大幅に減少しています。これは2000年の沖縄サミットで提唱され、設立に至った『グローバルファンド』のおかげです。それでもいまだ、新たに年間200万人がHIVに感染し、100万人が亡くなっています。マラリアについても前進している点はありますが、リスクにさらされていることに変わりありません。支援プログラムが終わると、再び台頭してしまうのです」(ピオット氏)。感染症に関する今後の展望について「この問題をグローバルな課題として、政府の連携などいくつもの努力を行う必要があります。先進国の人間と同じく、途上国の人間にも先進国で生み出されたイノベーションを生かす必要があるのです」とピオット氏は語った。
1人でもエボラウイルス感染者がいる限り、大規模な流行のリスクはなくならない。これが他の感染症とは異なる点だ。ピオット氏は、エボラ出血熱の流行を克服した状態を「最後のサバイバーが回復し、死亡者がいなくなるということ」と語った。また、エボラウイルスの宿主であるコウモリがいる限り、一度は抑え込んでも再び流行が発生する恐れがある。そのため、各製薬企業によるワクチン・治療薬の開発が欠かせない。ピオット氏は、「現在、開発されているエボラウイルスのワクチンは、開発が進んでいるものでも第1相試験ですが、次の大流行が起こるまでには、十分に備蓄できる状況にしたいと考えています」と今後の開発に期待を寄せた。(QLifePro編集部)
▼外部リンク
・公益社団法人 グローバルヘルス技術振興基金