理事長には今年6月30日付で、川上浩司氏(京都大学大学院医学研究科薬剤疫学教授)が就任。発足後7年間、理事長を務めた正岡徹氏(大阪府立成人病センター顧問)の責務を引き継いだ。副理事長には森下竜一氏(大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学教授)が就いたほか、新たな理事を選考。大阪だけでなく全国で幅広い領域の臨床研究を実施できるように、北海道、千葉、名古屋、岡山、大分の各大学の教授を理事に招いた。
ディオバン事件を発端に、適切な臨床研究のあり方について社会から厳しく問われるようになったことが、新事業を開始した背景にある。
医療用医薬品の有用性を立証するような市販後の臨床研究は、これまで製薬会社の寄付金などをもとに、各領域の著名な大学教授が主任研究者となって実施されることが多かった。各大学の医局が臨床研究の事務局や資金管理を担当し、どんぶり勘定で進められることが少なくなかった。
また、製薬会社のスタッフが資金提供以外にもかかわることによって、両者の距離が縮まり、データ改ざんや論文不正につながる余地が生まれた。結果として、ディオバン事件などが社会問題化し、適切な臨床研究のあり方が問われることになった。
同NPO法人は、製薬会社と医療現場の間に介在し、臨床研究の事務局業務や資金の流れ、データセンター業務を担当することによって、両者の癒着が社会から疑われない仕組みを構築した。従来の方法から「お金の流れやデータを切り分けて管理しないといけない。それは外部組織がやらないといけない」と川上氏は強調する。
具体的には、主任研究者が所属する研究団体と製薬会社が臨床研究契約を結んだ上で、その研究団体から、臨床研究の事務局業務や資金管理、データ収集・解析業務などを同NPO法人が受託する。臨床研究を実施する施設には、同NPO法人を介して研究費を支払うほか、CROに対する業務費、検査会社への検査費の支払いも行う。「お金の流れが透明化され、どこからもクレームをつけようがなくなる」と川上氏は話す。
データセンター業務は、豊富な経験を持つ関西の公益法人と連携し、臨床研究のデータを電子的に入力、管理、集積するシステムを安価に構築する。第三者の関与によってデータ改ざんを防止するほか、コスト削減にも貢献できるという。
ディオバン事件以降、従来の枠組みでは臨床研究を実施しづらくなり、「製薬会社は困っている」(川上氏)。社会的に説明がつくこの仕組みに興味を抱く製薬会社は多く、ニーズはあると見込んでいる。
今後、臨床研究支援業務を担当するスタッフを、早急に増員する計画だ。年内に、大阪市内に置く同NPO法人の事務局に約30人のスタッフを確保。来年には100人体制にする。初年度は、1件当たり100~1000人規模の臨床研究を数十件受けるなど、年間で合計1万人の症例数を担当できるようにしたい考えだ。
臨床研究の倫理審査は、同NPO法人のセントラルIRBで行える。公益性、独立性の高いIRBとして現在、月1回の頻度で10件程度の審査を実施している。
今後は、臨床研究にかかわる医師や製薬企業担当者、CRCへの教育も実施したい考え。また、将来は、川上氏が得意とする薬剤疫学の手法を生かし、様々な観察研究の結果をもとに、具体的な介入研究を立案、実施する事業を展開する計画だ。
発足当初の目的だった、関西の基幹病院をネットワーク化し、製薬会社の治験案件とマッチングさせる業務は、引き続き実施する。