スウェーデン・ウプサラ大学の共同研究により
独立行政法人理化学研究所は10月21日、理研脳科学総合研究センター発生神経生物研究チームとスウェーデン・ウプサラ大学の共同研究により、先天性無汗症の原因遺伝子が2型イノシトール三リン酸(IP3)受容体を発現する遺伝子であることを突き止めたと発表した。
画像はプレスリリースより
この研究成果は、「The Journal of Clinical Investigation」オンライン版に10月20日付で掲載されている。研究グループは、従来先天性無汗症の原因として報告されていた、汗腺の形成不全や交感神経の異常が見られず、発汗異常以外は健常者と変わらない、特異な先天性無汗症を発症する家系をパキスタンで発見。詳細な遺伝子解析等の研究を行って、原因遺伝子の同定に成功したという。
この家族では、全員には症状が出ていないことから、常染色体劣性遺伝子が原因遺伝子であると推測。同祖接合性マッピング法を用いて、近親婚家系のDNAサンプルを解析した。すると、全患者が12番染色体の一部領域をホモにもっていることが確認され、このDNA配列を調べたところ、2型IP3受容体を発現する遺伝子配列に変異が見つかったという。
IP3受容体が機能しないと発汗しないことが判明
IP3受容体の2型・3型は外分泌腺に多く発現するが、変異した遺伝子から作られた患者の2型IP3受容体は、イオンチャネル形成領域に点変異があり、これがカルシウムイオンの通過に影響を及ぼすと推測した。
そこで、この患者の変異型2型IP3受容体の機能を培養細胞で検査。細胞外の刺激によってカルシウムイオンを小胞体から放出する機能が完全に欠落していることを発見した。次に、野生型マウスと2型IP3受容体ノックアウトマウスに対し、細胞外刺激としてアセチルコリン受容体のピロカルピンを投与。2型IP3受容体の発汗における役割を調べた。すると遺伝子改変ノックアウトマウスでは、野生型マウスよりも汗の分泌量が少なかった。
さらにマウスの指先の汗腺を取り出し、汗腺細胞内のカルシウムの様子を観察したところ、ノックアウトマウスの細胞では野生型に比べ、アセチルコリン投与でのカルシウム放出量が約半分だったという。
今回の研究により、世界で初めて2型IP3受容体が関わるヒト疾患を明らかにすることに成功し、ヒトやマウスでの発汗において重要な役割を担っていることを明らかにした。研究チームでは、原因不明の後天性無汗症にもこのIP3受容体の機能異常がある可能性を指摘しているほか、IP3受容体の活性を制御することで無汗症や多汗症の治療法を確立できると見込んでいる。
▼外部リンク
・独立行政法人理化学研究所/ウプサラ大学 プレスリリース