渥美景子氏(聖マリアンナ医科大学病院薬剤部)は、英国で経験した臨床薬剤師業務を紹介。英国では、政府が2000年に薬剤師、テクニシャン、アシスタントのあるべき役割を提唱。薬剤師は、臨床管理や病棟回診、処方監査等を行い、テクニシャンは、医薬品の供給と調剤全般、持参薬の確認等を担当する。特に調剤過程の大部分はテクニシャンが実施、薬剤師は処方監査にかかわるのみだ。
ロボット調剤の推進に加え、粉薬と軟膏の調剤、水剤の混合調剤がないなど効率化が進んでいることが背景にあり、テクニシャンの業務は、服薬指導、点滴の混合、病棟における持参薬管理まで拡大。業務内容は、各医療機関の手順書に定められている。鑑査や病棟業務にかかわる認定・専門テクニシャンを制度化し、特に臨床的鑑査が徹底されている。英国の薬剤師は、患者ケアに時間を割けるとして、テクニシャンの業務拡大の動きを歓迎しているという。
渥美氏は、「医療制度が違う英国の業務をそのまま取り入れることはできないが、臨床鑑査の強化など、薬剤師業務を発展させるためには、薬剤助手の増員と業務分担、調剤業務の効率化が必要」と提言した。
岩澤真紀子氏(国立循環器病研究センター薬剤部)は、米国での経験から、医療安全において薬剤師が上流でインシデントを防ぐことの重要性を強調。テクニシャンの調剤過誤により、薬剤師が有罪判決を受けた米国の事例を挙げ、薬剤師の監督責任の重さを指摘した。事件は、抗癌剤の調製時にテクニシャンが0・9%と23・4%塩化ナトリウムを取り違え、2歳の少女が死亡したものの、テクニシャンは責任を問われなかった。
岩澤氏は、日本では医療安全戦略が調剤、鑑査、投薬といった医薬品供給プロセスの下流で行われている点を指摘。「インシデント対策は、医薬品の採用や処方提案といった上流で行うほど効率が良く、いかに前で防ぐかが重要。欧米では、薬剤師が上流の安全を確保しているからこそ、テクニシャンに任せられる」と述べ、そのためには病棟業務の標準化が不可欠になるとした。
その上で、「日本では、調剤業務の整理と効率化等の土台ができていないのに、高度な臨床業務を行っているケースが見られる」と指摘。「(調剤業務の効率化、DI業務の充実、臨床業務の標準化と)一つひとつのステップを積み重ねて、初めて高度な薬剤師業務ができる」とし、「薬剤師業務を標準化し、どう数値化していくか考えていくべき」と提言した。
木村利美氏(東京女子医科大学病院薬剤部)は、海外の業務分担の現状を踏まえ、「日本では薬剤師の人員が全く足りていない」と指摘。厚労省医政局長通知に示された必須業務として、ハイリスク薬の投与前確認と患者説明、注射剤の投与量・点滴速度管理、プロトコルに基づいた処方・検査オーダへの介入など、9項目が挙げられているが、「これを全て実施するとなるとハードで、かなりの業務が日本の薬剤師には求められている」との認識を示した。
日本の薬剤部門スタッフ数が100床当たり6・7人とのデータを示しつつ、「米国では同じぐらいテクニシャンがいる」と指摘。同院では、業務を抜本的に見直し、テクニシャンの雇用により処方鑑査とピッキングのプロセスを分離。IT化による無人化も進め、薬剤部員の約半数が臨床薬剤師として業務を行っていることを紹介した。
討論でも、テクニシャンの活用をめぐる現状が整理され、会場への質問から、国内でも多くの医療機関でテクニシャンを活用していることが分かった。テクニシャンが調剤過誤やミスを起こしたときの責任については、「基本的に管理者である薬剤師の責任」との認識が示され、薬剤師の責任の重さを確認した。