タンパク質のリン酸化シグナル変化を捉えることに成功
東京医科歯科大学は9月16日、同大難治疾患研究所/脳統合機能研究センター・神経病理学分野の岡澤均教授ら研究がグループアルツハイマー病の発症前および超早期における病態として、タンパク質リン酸化シグナルの異常が見られることを発見したと発表した。
画像はプレスリリースより
これは最新の質量分析技術と、東京大学ゲノム解析センターの宮野悟教授との協力で実現したスーパーコンピュータによるシステムズバイオロジーを生かした研究。アルツハイマー病モデルマウス4種類とアルツハイマー病患者の死後脳のタンパク質を網羅的に解析した成果という。研究成果は、英専門誌「Human Molecular Genetics」オンライン版に現地時間9月17日付で掲載されている。
主に神経細胞間のシナプス機能に関与、新規治療法開発に期待
今回の研究では、モデルマウスで変化が確認されたリン酸化タンパク質をリスト化し、国立遺伝学研究所公開のPPIデータベースと重ねることで、異常リン酸化シグナルネットワークを描出。さらに、アルツハイマー病モデルマウスの種類を超えて共通するコアの抽出を試みたところ、コア病態タンパク質は17個に集約していたという。
これらのタンパク質の大半は直接的に結合し、コア病態タンパク質の大半はアルツハイマー病患者の死後脳でも変化が認められるものだった。また、アミロイド病態の下流に位置づけられるタウ病態を反映すると考えられている変異型タウタンパク質を持つトランスジェニックマウスでの解析でも、同様の変化が確認されたという。
これらから、超早期から晩期にいたるまでの持続的な異常シグナルであること、ヒト病態で起こり得る変化であること、アミロイド病態とタウ病態をつなぐ変化であることなどの可能性が強く示唆された。
そして、分子機能面からコア病態ネットワークを見ると、これらタンパク質はシナプスに深く関与していると推測されたことから、最も重篤な症状のマウスで治療実験を実施し検証した。すると、最も重篤なマウスでもアミロイド凝集が認められるのは3か月齢から、記憶力低下などの異常検出は6か月齢以後であることが判明。コア病態ネットワークの変化はこれらより早く、発症前かつアミロイド凝集前に確認できることが証明されたとしている。
この研究成果は、アルツハイマー病の発症前、凝集前の超早期病態の一部を解明したものであり、判明した超早期のコア病態シグナルネットワークあるいはコア病態分子をターゲットとする治療法の開発を行えば、効果的にアルツハイマー病の進行を抑制し、治癒へと導く新たな方法となる可能性があると期待されている。(紫音 裕)
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・東京医科歯科大学 プレスリリース