第1弾として医師向けに約1万1000枚を配布
大塚製薬株式会社とユーシービージャパン株式会社は、このほどてんかん発作を見て学べるDVD「てんかん発作ビデオ集」を作成し、9月下旬より医師向けに約1万1000枚を配布する。対人口比の有病率約1%といわれ、日本国内にも約100万人の患者がいると推計されているてんかんだが、発作型は多種多様で神経系専門医などでもごく一部の発作型しか目にしたことがないことが多く、非専門医に至っては教科書的な知識しか持ち合わせていないのが実状。今回のビデオ集は発作を軸に医師全体のてんかんに対する理解を深め、潜在化した患者の掘り起こしや、専門医への紹介など促進し、その結果より多くの患者が適切な治療を受けられるようにするのが狙いだ。
画像提供:大塚製薬/UCBジャパン
ビデオ集の最大の特徴は、プロの役者が、実際のてんかん患者の発作映像とてんかん専門医の指導の元、発作の状況を再現していること。これまでてんかん専門医が実際の教育研修で用いていた患者の発作映像は、患者の個人情報保護の問題から広範な利用が難しく、また画質や音声も良好とはいえなかった。ビデオ集はこれらの点をクリアするとともに、症状の経時的な変化をテロップで解説するなどの新たな利点も加わった。
てんかん発作の多様性に関して医療従事者の理解は進んでいない
監修に当たった東北大学大学院医学系研究科てんかん学分野教授の中里信和氏は、てんかんについて、発症年齢、原因、治療方針などにも多様性があると説明したうえで、「残念ながら、てんかん発作の多様性に関してすら医療従事者の理解は進んでおらず、神経専門医ですら、てんかんの病型を考慮せず、自らが使い慣れているというだけで単一の薬剤を画一的に処方しているケースは後を絶たない」との現状を説明。同時に誤診の結果、作用の強い抗精神病薬などを処方されている患者も少なくないとの問題視した。
また、一部の医師の間では、てんかんそのものの診断や類似疾患との鑑別で外来での脳波検査が重視されていることについても言及し、「脳波は重要だが、脳波異常のないてんかんもあり、病歴聴取がそれ以上に大切。だが、発作の多様性への理解がない医師がいくら問診しても診断はできない」と指摘。ビデオ集を通じて発作への理解が進むことで、てんかん患者のみならず、現在抗てんかん薬服用者の3人に1人と言われる、誤診された非てんかん患者の治療の適切性が高まるとの見通しを示した。
さらに中里氏は、てんかんの診断では発作の瞬間と脳波を同時にとらえる長時間ビデオ脳波モニタリング検査は極めて有効であると強調。しかし、診療報酬額の低さなども影響して、国内推定てんかん患者100万人のうちこの検査が必要と考えられる約30万人のほとんどが検査の恩恵を享受できていないとの認識を示し、「ビデオ集がてんかん非専門医からてんかん専門医への紹介を促し、より多くの患者が長時間ビデオ脳波モニタリング検査を受けられるきっかけになってほしい」との期待も表明した。
当面、ビデオ集は医療従事者を対象としているが、将来的には患者団体や患者支援団体での教育研修、さらには学校や社会などてんかん患者の周囲での教育的利用も念頭に置いている。(村上和巳)