右側頭葉からの発作の場合、脳波変化よりも先に心拍が上昇
東北大学は9月6日、同大大学院医学系研究科てんかん学分野の中里信和教授らのグループが、海馬に異常を持つ側頭葉てんかん患者において、右側の側頭葉から発作が始まる場合にのみ、脳波変化よりも早く心拍の上昇がみられることを明らかにしたと発表した。この研究成果は、9月5日付で米化学誌「Neurology」電子版に掲載されている。
画像はプレスリリースより
部分てんかんの中で最も多い側頭葉てんかんは、これまでの研究で記憶をつかさどる海馬に焦点がある場合が多いことが分かっている。臨床では、薬で発作が抑えられない場合、手術の適応が検討される。従来、発作時の症状や脳波所見をもとに左右いずれの側頭葉かを診断していたが、こうした手法は決して容易なものではなかった。
今回、研究グループは、東北大学病院に入院してビデオ脳波モニタリング検査を受けた患者のデータを解析し、側頭葉てんかんが左で起きている場合と右で起きている場合で、どういった違いがあるのか検証した。
すると、右側頭葉からの発作では脳波上の発作変化がみられる前に心拍上昇が始まっているのに対し、左側頭葉からの発作では脳波上の発作に遅れて心拍が上昇し始めていることが確認されたという。
手術を行う際の診断精度向上や発作予知・予防につながる診断基準の開発に光
これは、右側頭葉からの発作は心臓の動きをコントロールする洞房結節に直接作用し、発作早期から心拍を上昇させているのに対し、左側頭葉からの発作では、発作活動がいったん右側頭葉に伝わってから洞房結節に作用するため、結果として心拍上昇が遅れるものと考えられている。
この左右差の発見により、発作時の心拍上昇タイミングに着目すれば、高い精度で側頭葉てんかんの発作起始側がいずれであるかを予測することが可能となった。研究は右側頭葉からの発作が心臓自律神経に直接作用し、発作早期から心拍上昇を引き起こすことを初めて明らかにしたものであり、重要な意味を持つ発見といえる。
また研究グループによると、この発見は、低い発生頻度ながら近年注目を集めている、てんかん患者における原因不明の突然死に関し、その病態解明や予防につながる可能性もあるものだという。
薬が効かない患者において手術を行う場合の診断精度向上に寄与するだけでなく、将来的に発作の予知や予防へと結びつく診断基準を開発できるとも目されており、今後のさらなる進展が期待される。(紫音 裕)
▼外部リンク
・東北大学大学院医学系研究科 プレスリリース