名寄市は、米、もち米、カボチャ、アスパラガス、スイートコーンなどの産地として有名。薬用植物についても、1990年以前は一大産地だったが、その後、中国産の台頭や北海道生薬公社の解散などもあり停滞していた。
2010年に市長に就いた加藤氏は、“薬草産地としての復活”を政策の柱に、自らが旗振り役となって、取り組みを進めている。昨年、地元生産者有志により「薬用作物研究会」(会長:東野秀樹氏)が発足し、現在では20人の農家が薬用植物を栽培している。そこに試験圃場を持つ研究拠点の「名寄市農業振興センター」や農業協同組合との連携もできつつある。
そして7月には基盤研と共同研究契約を結んだ。基盤研が主催する「薬用植物フォーラム」を名寄市で初めて開催したところ、約160人が参加する盛況ぶりだったという。名寄市内には、基盤研薬用植物資源研究センター北海道研究部があり、「企業や大学、研究機関が共同で研究できる全国でも数少ない地域」と加藤氏は自負する。
こうした研究基盤を生かし、まずはカノコソウの栽培で実績をつくる方針。既に研究会では昨年から試験栽培を開始し、今年で2年目に突入。病害などは見られておらず、順調に進んでいる。収量拡大に取り組み、来年には初出荷する予定だ。加藤氏は「地についたばかり。試験栽培ではいい結果が出ているが、実生産で成功したい」と意気込む。
薬用植物栽培をめぐっては、農林水産省と厚生労働省がタッグを組み、国内での栽培が加速する明るい兆しが見られているが、数品目については産地が乱立し、競争が過熱しており、単価が下落する懸念もある。加藤氏は、「他の産地が手がけない栽培が難しい品目にチャレンジし、個々の薬用植物に適した種苗育成や栽培技術、収穫機の開発など根元の研究面でリードしていきたい」との独自色を強調。国産生薬のブランド化を目指すと共に、栽培効率化や収量・品質を高める技術を確立し、他地域から企業や人材を呼び込み、情報交換の場として活性化させていきたい考え。
人口は減少傾向で、3万人を切った。だが、薬用植物という新たなカテゴリーに挑戦することで、「息子が帰ってきたときに、ぜひやらせたい」という地元農家の声も出始めた。薬用植物を“新規就農”につなげ、後継者問題の解決策にすると共に、漢方薬原料だけでなく、薬膳や地域特産物を開発し、様々な出口を見据えた6次産業化に取り組む。将来的には、海外に輸出できるだけの産業化を目指す。加藤氏は、「ようやく出発点に立った。挑戦していきたい」と話す。