■電子お薬手帳に波及も
これまで国内では、電子カルテの大手ベンダーが独自規格の開発を進めてきたため、医療機関ごとにデータの互換性がないことが課題となってきた。一方、CT等で撮影した医用画像の分野では、2000年頃から標準規格「DICOM」に準拠した商品開発をトップベンダーが決断。以降、一気に標準化が進んだ経緯がある。
これを電子カルテで実現するため、厚労省は04年から実施された「静岡県版電子カルテシステム事業」の成果をもとに、全国の医療機関で標準的な医療情報の交換を目指す事業(SS‐MIX)を開始。標準化しやすい処方・注射歴、検体検査結果、病名登録を、厚労省規格に指定したHL7形式で保存する「SS‐MIX標準化ストレージ」を開発し、標準化された医療情報を全国で活用する取り組みに乗り出した。
標準化ストレージは、電子カルテベンダーに依存しない汎用性の高い仕様で構築され、ファイル形式の単純な構造で誰もが使いやすいシステムに設計されているのが特徴。電子カルテベンダー各社や医療機関の規模にかかわらず、同じHL7形式で処方・注射歴、検体検査結果、病名のデータを保存できる。
これまでの実績を背景に、電子カルテベンダーがHL7形式で医療情報を出力し、標準化ストレージに保存できる機能を装備し始めた結果、全国で標準化ストレージを装備する施設数が急増。
既に標準化ストレージは、厚労省の医療情報データベース基盤整備事業の全国25病院、国立大学42大学45病院などに導入が進められてきており、処方・注射歴、検体検査結果、病名のデータを標準的に保存している医療機関は、昨年の140施設から今年6月時点で358施設に急速に拡大している。
DICOM規格と同様、国内の大手ベンダーが方針を転換したことが大きなきっかけと見られている。全ての電子カルテデータではないものの、医療機関で処方・注射歴、検体検査結果等を国の標準規格で保存していく流れは、さらに大きく加速していきそうだ。
今後は、標準化ストレージに保存された処方・注射歴や検体検査結果等のデータを、保険薬局等に取り込んでいく等の地域連携に生かす方向も検討が予定されている。病院や診療所、保険薬局等の施設間でデータを受け渡す仕組みの国際規格「XDS」が厚労省規格として採用される見通しと言われており、厚労省規格の標準化ストレージとXDSの連携が完成すれば、保険薬局等でも標準的な電子カルテデータを活用できる機会が広がってくる。
さらに、数十社の独自規格が乱立している電子お薬手帳についても、標準化ストレージに準拠した製品開発が進んでいく可能性がある。現在、電子お薬手帳を使った患者の囲い込みが問題視されている中、電子お薬手帳も厚労省の標準規格を採用する動きが加速することも予想される。