免疫細胞による新感染防御メカニズムを発見
東京大学は8月22日、免疫細胞の一種である自然リンパ球が、腸管上皮細胞の糖転移酵素の発現および酵素による糖の付加を制御していることを突き止めたと発表した。
画像はプレスリリースより
腸管上皮細胞に発現している糖転移酵素は、病原性細菌やウイルスなど病原体の感染、クローン病などさまざまな疾患に関与していることが分かっており、その研究は免疫細胞による新たな感染防御機構の発見として注目されている。
数ある腸管上皮細胞の糖転移酵素の中でも、フコース転移酵素によって細胞表面に付加されるフコースは、細胞の移動や接着、シグナル伝達、がんの進行、ウイルスなど病原体の感染にも関与する。しかし、フコース転移酵素の発現機構やフコースの生体内における役割は、これまで不明とされてきた。
感染症や慢性炎症性疾患などの治療開発に期待
東京大学 医科学研究所の後藤義幸研究員(現 米コロンビア大学博士研究員)らの研究グループは、まず無菌マウスを用いて腸内細菌が腸管上皮細胞のフコース転移酵素の発現とフコシル化に関与することを発見した。ここから免疫細胞が腸管上皮細胞のフコシル化を誘導している可能性があると考え、代表的免疫細胞であるT細胞やB細胞を欠くマウスを調べたが、腸管上皮細胞のフコシル化に変化は見られなかったという。
そこで、近年発見された腸管免疫細胞のひとつである自然リンパ球をもたないマウスの解析を行ったところ、腸管上皮細胞のフコース転移酵素の発現およびフコシル化がほぼ消失していることが確認された。また遺伝子欠損マウスを用い、自然リンパ球が腸内細菌依存的/非依存的にそれぞれ産生するIL-22とリンホトキシンが、腸管上皮細胞のフコース転移酵素とフコシル化誘導を行っていることも突き止めたという。
次に生体内におけるフコシル化の役割を調べるため、フコース転移酵素を持たないマウスに、サルモネラ菌を感染させたところ、通常の野生型マウスに比べて多くの菌に感染し、炎症症状も悪化した。よって腸管上皮細胞のフコシル化は、病原性細菌に対し、バリアを形成して感染防御効果を発揮するとみられる。
これらの結果から、腸管でリンホトキシンを常に産生している自然リンパ球が、腸内細菌からの刺激を受けてIL-22を産生し、腸管上皮細胞のフコース転移酵素の発現ならびにフコシル化誘導を起こし、サルモネラ菌の感染を防いでいることが分かった。
フコース転移酵素はウイルスなどの感染やクローン病といった様々な疾患に関連する遺伝子であるため、今回明らかになった自然リンパ球によるフコース転移酵素の発現誘導メカニズムがこれら疾患にも関与している可能性がある。よって、感染症や難病の慢性炎症性疾患などに対する予防や診断、治療の新規開発につながると期待される。(紫音 裕)
▼外部リンク
・東京大学 医科学研究所/科学技術振興機構 プレスリリース