臨床研究の名称は「保険薬局薬剤師による高血圧患者への生活習慣改善支援に関する研究」(COMPASS‐BP)。文部科学省の科学研究費を得た「慢性疾患管理による地域ケアモデルの構築とその臨床・経済的効果に関する研究」の一つとして実施されるもの。
同センター予防医学研究室が事務局を担当。岡田氏が博士課程後期2年として在籍している京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻健康情報学の中山健夫教授が研究実施責任者を務める。このほか坂根直樹氏(同センター予防医学研究室長)、恩田光子氏(大阪薬科大学薬学部准教授)らが研究メンバーに加わっている。
研究は、全国各地から約60薬局、約180~200人の高血圧患者の参加を得て実施する計画だ。薬局に来局する降圧薬服用中の高血圧患者を対象に、歩数計と血圧計を貸与し、毎日の血圧や歩数の記録をつけてもらう。さらに3カ月間で計3回、通常の服薬指導とは別に、生活習慣の自主的な改善を後押しする効果的な声かけを薬剤師が行う。
患者には、減塩、食事、運動、節酒などの中から、改善したい生活習慣を選んでもらう。その上で薬剤師は「週の半分は総菜を購入するのをやめる」など具体的な目標の設定を支援したり、生活習慣を変えることのメリットを具体的に伝えたり、患者の行動変化を褒めてやる気を引き出したりする。薬剤師が指導するのでなく、患者が自ら何に取り組むのかを考え、実践することを支える。3分程度の時間で効果的な声かけを行って、その内容に応じた資料を患者に渡す。
別途、介入期間の前後には、付加的な介入を行わない観察期間を3カ月間設ける。
介入開始から12週目の血圧と介入前の血圧を比較することによって、薬局薬剤師による介入が血圧改善につながるかどうかを評価する。このほか、体重変化、食事や運動習慣の変化、服薬アドヒアランス、健康的なライフスタイルについての知識の変化も測定。経済的な分析や、薬剤師のやりがいの変化なども検証する計画だ。
今月末頃まで、薬局薬剤師を対象にした説明会を各地で開き、研究への参加を呼びかけている。神奈川、滋賀、長崎、熊本、鹿児島、大阪、奈良、兵庫、愛知の9府県の薬局が参加する見込み。10月から試験を開始し来年3月頃に終了。以後、データ解析を行い、来秋以降の学会などでその結果を発表する予定だ。
薬局薬剤師の介入効果を示した海外の先行研究では、介入方法として長時間のカウンセリングが組み込まれることが多い。一方、COMPASS‐BPは、多忙な日本の薬局薬剤師が通常業務の範囲内でも実践できるように、短時間での声かけの効果に重点を置いたことが特徴だ。
岡田氏は「カナダで実施された、ナースプラクティショナーと家庭医、薬剤師の連携によって血圧が下がったという臨床研究を最も参考にしている。日本ではこうした連携は現段階では難しい。薬剤師単独、短時間の介入でも同じような血圧改善効果が得られるだろうと期待している」と語る。
岡田氏は、薬局薬剤師として患者にかかわった経験をもとに一連の臨床研究を構想した。研究グループはこれまでに、糖尿病患者を対象に、薬局薬剤師が短時間の動機づけ面接と情報提供を行うことによって、HbA1c値がどう変化するかを多施設で検証した「COMPASSプロジェクト」を実施。薬剤師の介入によって同値が低下することを明らかにしている。