これまで腫瘍マーカーは40種類程度が開発されているが、進行した癌の治療効果を判定するために使われているのが現状。感度・特異度が低いため、癌検診に用いられているのは前立腺癌のPSAのみとなっている。また、癌検診は患者負担が大きいことから、1回の検査で低侵襲に癌をスクリーニングできる検査法が待たれていた。
そこで、今回のプロジェクトでは、国立がん研究センターに蓄積された膨大な臨床情報とバイオバンクの検体、マイクロRNA腫瘍マーカーの研究成果をもとに、先端材料に強い東レが開発した高感度DNAチップ、両者が共同開発した血液中のマイクロRNAバイオマーカーの探索方法を活用。体液中のマイクロRNA発現を調べることで、癌の早期診断マーカーの開発を目指す。
NEDOの事業として、約79億円を投じ、今年度から2018年度の5年間にわたって、国立がん研究センター中央病院、東病院と研究所、東レなど9機関と8大学の共同で実施される。さらに、診断薬メーカー、NPO法人のバイオチップコンソーシアムなどがユーザーフォーラムを設立し、研究成果の橋渡しを行い、診断マーカーの実用化を推進していく。
マイクロRNAの体液診断には、数千例を超える臨床検体を用いた実証研究が必要とされているが、今回は国立がん研究センターのバイオバンク検体から、日本人に多い癌種ごとに5000検体以上、13種類で6万5000検体以上を用いてマイクロRNAの発現を調べ、癌診断マーカーの開発を進める。
既に300例程度の臨床検体を用い、乳癌の血清診断用マイクロRNAを調べたところ、感度が9割以上、特異度が8割以上と好結果が得られたことから、初年度は、まず乳癌をターゲットに数千例規模の臨床検体の解析を実施し、マイクロRNA腫瘍マーカーの開発を進めていく考えだ。
18日に記者会見したNEDOの倉田健児副理事長は、「プロジェクトのキーワードは先制医療。そのためのツールとしてマイクロRNAを使い、癌患者に成果を届けるのみならず、日本の産業界のイノベーションにつながっていくようにしたい」と語った。
国立がん研究センターの堀田知光理事長は、「われわれが率先して質の高い研究を推進していく重要なプロジェクトとなる」と強調。研究成果の最大化に向け、同センターを挙げて注力していく姿勢を示した。