2011年6月に東大先端研と富士通が開始、同年7月から興和が参加
東京大学は8月7日、同大先端科学技術研究センター(東大先端研)、富士通株式会社、興和株式会社が、コンピュータ上で仮想的に設計・評価するIT創薬によって、がんの標的蛋白質の働きを抑える医薬品の候補となり得る新規活性化合物の創出に成功したと発表した。
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また、今回の共同研究で、創薬研究の推進において重要な情報を与える複数の低分子化合物も得ることができ、今後は前臨床試験評価を目指して改良を進めることを決定したという。
この共同研究は、2011年6月に東大先端研と富士通が開始し、同年7月に興和が参加したもの。東大先端研の「疾患を引き起こす原因と考えられるタンパク質の情報」という研究をもとに、IT創薬による方法と、従来の低分子創薬技術とコンピュータを用いた低分子化合物探索の併用による方法という2つの方法でがんを標的とする創薬研究が進められた。
従来の低分子創薬技術と比べて「12.5%」という高い確率
従来の低分子創薬技術においては、標的蛋白質に対し、ある設定基準以上の阻害活性を示す低分子化合物を、試薬会社が提供する市販の化合物ライブラリなどから探索する。探索された低分子化合物は、医薬候補化合物とするために、新規の化合物構造に改変する必要があるが、改変に適した低分子化合物が必ずしも得られるとは限らないという課題があった。
IT創薬による方法では、医薬品の候補となる低分子化合物の設計は富士通、低分子化合物の合成と実験による阻害活性測定は興和が主に担うという役割分担のもと、研究が行われた。今回の共同研究では、標的蛋白質に対して、医薬候補化合物設計技術によりコンピュータ上で多様な化合物構造を設計。高精度活性予測技術によりそれらの阻害活性を予測して絞り込み、合成と実験による阻害活性測定を行ったという。これにより、既知化合物の改変による従来の創薬では得がたい新規の化合物構造であり、阻害活性の高い医薬候補化合物を高い確率で創出することを目指したとしている。
その結果、コンピュータ上で設計した多様な化合物構造の中から、標的蛋白質との相互作用により安定な複合体を形成すると考えられる22の化合物構造を選択し、そのうち8化合物構造を合成。実験による阻害活性測定を行ったところ、そのうちの1低分子化合物が、目標とする阻害活性を示し、新規活性化合物を創出することに成功したという。この12.5%という確率は、従来の低分子創薬技術と比べて非常に高い確率で、新規活性化合物を創出したことになるとしている。(小林 周)
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・東京大学 プレスリリース