精神疾患の引き金になると考えられるシナプス刈り込みの異常
東京大学は8月8日、同大大学院 医学系研究科の狩野方伸教授ら研究チームが、神経回路形成の根幹をなすとされるシナプス刈り込みについて、その仕組みを解明したと発表した。この研究成果は、米専門誌「Cell Reports」オンライン版に8月7日付で公開されている。
画像はプレスリリースより
シナプス刈り込みの異常は、統合失調症や自閉スペクトラム症といった精神疾患の引き金になるとも考えられている。これまでに、刈り込まれるシナプスの選別は、シナプス結合の強さが重要であることが分かっていたが、結合の相対的差が重要なのか、生き残るシナプスに一定の絶対的強さが必要なのかは不明であった。
遺伝子改変マウスで検証、生後12日で変化
研究チームは、まずシナプス刈り込みの代表的モデルである「小脳の登上線維-プルキンエ細胞のシナプス生後発達」に着目。シナプス刈り込みにあたる登上線維の除去が進行する生後発達期において、小脳の登上線維-プルキンエ細胞間のシナプス結合の絶対的な強さが半分程度に弱くなった一方で、強いシナプス結合と弱いシナプス結合の相対的な強さの差は、正常なままの遺伝子改変マウスを作製した。この遺伝子改変マウスで電気生理学的及び形態学的手法を用い、シナプスの生後発達を調べた。
すると遺伝子改変マウスでは、生後7~11日目までは過剰な登上線維のシナプス刈り込みが正常に進行したのに対し、それ以降の生後12~16日目では刈り込みが障害され、過剰な登上線維のシナプスが残存したまま成体となることが分かったという。
また、野生型マウスでは、プルキンエ細胞の樹状突起が発達するのに伴って登上線維のシナプス分布が細胞樹状突起に沿って伸展していくが、遺伝子改変マウスでは、この伸展が不十分だった。
これらの結果から、生後7~11日目のシナプス刈り込み前期過程と登上線維のプルキンエ細胞樹状突起への伸展には、強いシナプス結合と弱いシナプス結合の相対的強さの差が重要であるのに対し、生後12~16日目の後期過程では、個々のシナプス結合の絶対的強さも重要であることが判明したとしている。
さらに研究チームは、シナプス結合の強さが減弱しているために、登上線維からのシナプス伝達の結果としてプルキンエ細胞に流れ込むカルシウムが減少し、カルシウムによって駆動される最初期遺伝子Arcの活性化が不十分なことが、シナプス刈り込み後期の異常を引き起こしていることも突き止めたという。
今回の研究成果は、シナプス刈り込みにおいてシナプス結合の相対的強度差だけでなく、個々のシナプス結合が持つ絶対的強度差が重要であることを示している。シナプス刈り込みは、神経系のあらゆる領域における回路発達に重要な現象で、小脳のみならず大脳皮質・海馬、線条体などにも展開できる成果と考えられ、精神疾患の原因究明に新たな知見をもたらすと期待される。(紫音 裕)
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・東京大学大学院 医学系研究科・医学部 プレスリリース