患者が主体性を持って治療に取り組む手助けを
アストラゼネカ株式会社は8月6日、「Patient Centered Care‐患者さんの生活の質(QOL)を中心とした治療アプローチについて」と題したメディアセミナーを開催。奈良県立医科大学 糖尿病学講座の石井均教授が、糖尿病治療の現状と課題、治療継続の重要性、患者のQOLを中心としたアプローチについて講演した。
奈良県立医科大学 糖尿病学講座
石井均教授
糖尿病治療の目標は合併症を予防することである。しかし実際には、年間約1万人が糖尿病性腎症を発症しているという現実がある。厚生労働省の調査*1によると、治療を受けている患者のうち、1年間でおよそ1割が通院を中断してしまっているという。治療が継続しない原因はどこにあるのだろうか。
これについて石井教授は、「これまで医師は、コンプライアンスに基づいた治療を行おうとするばかりに、患者視点で治療を考えられてこなかったことが原因の1つ。患者にとって糖尿病それ自身は『ヴァーチャル』な病気であって、医師から指導されても他人事のように感じてしまっている。患者が主体性を持って治療に取り組めるよう、医療者が助ける必要がある」と語った。
現在のQOLが将来の合併症を防ぐ
では、どのように治療を助けるのか。石井教授の研究*2によると患者のQOLを高めることが、治療の実行度を上げる要因になる。
「患者のQOLを知らなければ、その薬が患者にとって本当に良い薬なのか分からない。(石井教授が行った研究では)QOLが高い人は、食事療法、運動療法など治療法が実行できているという結果が出た。治療が実行できれば、QOLが上がり、将来の合併症が減ることまで証明できている。今、日常生活、気持ちの面、便利さの面でも良い治療ができていれば、それが将来のQOLを保証するということになる」(石井教授)
現在、糖尿病治療における患者の選択肢は無数にあると言える。石井教授は「生理学的なマーカーだけで薬の差をつけるのは難しくなってきている。患者の視点が薬の差を評価するポイントになってきている。その代表的なものがQOLであると思っている」とした。
最後に石井教授は、前述の調査結果から「患者が『治療の方針に関する自身の考えを医師に伝えているか』という質問で『十分伝えている』と答えた人では、QOLが高くなっていた。どんな薬を使っているかも大切だが、患者がその薬についてどう思っているかを医者に伝えられるかが大事。今後、糖尿病治療では極めて重要なファクターとなるだろう」とまとめた。(QLifePro編集部)
*1 第57回日本糖尿病学会年次学術集会において発表された厚生労働省の研究班調査まとめ
*2 Ishii H.et al.: J Med Econ.,15,556-563, 2012