同院薬剤部は以前から、がん患者を対象に検査値を薬局薬剤師に開示したい意向を持っていた。京都大学病院の取り組みをきっかけに本格的な検討を開始。今春の院内システム更新に合わせて機能を追加し、院内の合意を得て今年5月7日から実施に踏み切った。
院外処方箋を従来のA5サイズからA4サイズに拡大。増えたスペースを活用し、院外処方箋内の右側に検査値を表示する枠を設けた。
表示する検査項目は、腎機能を示す推算GFRなど13項目。過去4カ月以内に測定された直近の検査値を掲載する。これらは京都大学病院の方法と同じだ。余白を設けて必要に応じ他の検査項目も記入できるようにした。
岡山大学教授・薬剤部長の千堂年昭氏は「病院内でのチーム医療は軌道に乗ってきた。これからは外来でのチーム医療が重要になる。その突破口にしたい」と語る。腎機能が低下しているのに減量されていなければそれを医師に連絡し、過量投与による副作用の発現を未然に防止したり、検査値から副作用を早期に発見してそれを伝えたりする役割が薬局薬剤師に求められるという。
検査値開示の対象患者は、院外処方箋を発行する全ての外来患者。ただ、院外処方箋発行時にその都度、検査値の表示、非表示を医師が選択する機能をシステム画面上に設けた。多くの医師から賛同を得たものの、一部の医師から検査値開示に反対する声が上がったためだ。押しやすい位置に非表示の選択ボタンが配置された影響もあって、検査値が表示された院外処方箋の割合は6月時点で全体の約25%にとどまることから、7月中旬に選択ボタンの配置を変更した。今後、検査値表示の割合は高まると見られる。
同院の院外処方箋発行率は約91%。1カ月間の発行枚数は約1万6200枚。その多くは門前の7薬局が応需している。検査値表示によって薬局薬剤師からの疑義照会がどう変わったのか、今後その効果を検証したい考え。現在のところ、医師や患者からのクレームはないという。
一部の医師からは検査値項目の拡充を望む声も聞かれる。検査値は最大20項目まで表示できる。検査項目の拡充なども今後検討する計画だ。
受け手側の岡山県薬剤師会の赤澤昌樹会長は「今まで情報があまりないままで調剤していたが、検査値があることによって患者さんを守ることができ、非常に有用。一方で、われわれの責任も重くなる。肝障害を惹起する可能性のある薬や、腎機能低下時に注意が必要な薬など、疑義照会を行う上で参考になる情報を岡山県薬のウェブサイトに掲載した。検査値に関する勉強会を定期的に開き、薬局薬剤師の資質向上に努めたい」と語る。
大学病院のうち、院外処方箋と同じ用紙に検査値を表示する方式は福井大学病院、北海道大学病院などが実行。院外処方箋内に表示する方式は京都大学病院、京都府立医科大学病院に続き、このほど岡山大学病院が実施に踏み切った。現在、熊本、三重、九州など複数の大学病院が検討や準備を進めており、検査値表示は今後各地の大学病院に広まると見られる。