■「MRの意識低さあった」
行政処分の対象となったのは、ノ社が関与した東京STI研究グループの医師主導臨床研究、慢性骨髄性白血病治療薬に関するQOLアンケート調査「KIZUKIプロジェクト」において、合わせて16例21件の重篤な副作用を把握していながら、期限内に厚労省に報告しなかったこと、ノ社の複数MRが白血病薬「グリベック」「タシグナ」の副作用情報を社内の安全管理統括部門に伝えていなかったという二つの行為。
厚労省によると、問題の2事案にかかわったノ社のMRは190人程度。重篤な副作用と判定されたのは、アンケート調査の14例16件、医師主導臨床研究の2例5件だった。そのうち、グリベックの未知の副作用として、B型肝炎、胃癌、心電図QT延長、既知の副作用として、間質性肺疾患等が見られたが、副作用による死亡例はなかったとしている。
厚労省は6月までの調査で、ノ社がアンケート調査等におけるこれら副作用を把握後、最大4年2カ月にわたって報告してなかったこと、複数のMRが副作用情報を社内の安全管理統括部門に伝えていなかったことを重く見て、薬事法に基づく行政処分が必要と判断。ノ社に対し業務改善命令を出した。
医療関係者からの有害事象報告について、社内の全MRから安全管理統括部門に確実に報告される体制を構築、教育訓練を実施すること、それ以外で知り得た全ての有害事象等についても、MRが安全管理統括部門に報告すべき対象と明確にすることを要求。これらを踏まえ、薬事法に基づく副作用報告を期限内に行うと共に、今月末までに是正措置と再発防止策の改善計画を策定し、厚労省に報告するよう指示した。
厚労省医薬食品局監視指導・麻薬対策課の赤川治郎課長は、「本来、どんな事情であっても、MRが知り得た副作用情報は安全管理統括部門に報告すべき。MRが把握していながら報告していなかったところに意識の低さ、甘さがあった」と厳しく指摘。「いずれも必要な報告であり、製薬企業ならば、組織としてきちんと法令に従って対応すべきなのは当然だ」と改善命令を出した背景を語った。
業務改善命令を受け、ノバルティスは「このような事態を招き、深くお詫びする。製薬企業にとって極めて重要な副作用報告を適正に報告していなかったことを非常に重く受け止めている。全社を挙げて再発防止を徹底し、信頼回復に取り組んでいく」とのコメントを発表した。
ノ社をめぐっては、高血圧治療薬「ディオバン」の医師主導臨床研究のデータ改ざん問題でも、元社員と法人としてノ社が起訴され、行政処分が検討されているが、「今回の行政処分とディオバン事件は事象として別。公判の状況を見ながら処分を考える」(厚労省)としている。
■田村厚労相、報告義務徹底へ通知発出
一方、田村憲久厚労相は1日、閣議後の記者会見で「ノバルティスはMRが副作用情報を報告しなかったということで、会社として管理できていなかった特別な事案だと思うが、他の製薬企業にも改めてしっかり副作用情報を報告していただくことを、通知の形で出したい」と述べ、業界に通知を発出し、副作用報告義務の徹底を求めていく考えを明らかにした。