子宮内膜様組織の再構築に成功
慶應義塾大学は7月18日、同大医学部産婦人科学教室の丸山哲夫専任講師と宮崎薫助教が、ラットモデルでの脱細胞化・再細胞化技術を応用し、子宮の部分的再構築に成功したと発表した。
画像はプレスリリースより
現在、子宮欠損に対する治療法は代理懐胎しかなく、この方法も日本では倫理的問題から認められていない。また子宮移植の実施報告も少数あるが、レシピエント、ドナー双方への高度な侵襲を伴う手術が必要であることから、大規模な臨床応用への移行は困難とみられている。
そこで丸山氏らは、組織工学と再生医学を応用した子宮の再生を新たな選択肢と考え、その材料として子宮そのものに由来する細胞外マトリックスに着目したという。
欠損部の再生、妊孕性も確認
まずラット子宮を大血管と共に摘出し、細胞破壊性薬剤を3日間持続的に灌流させ、白色透明の構造物を作成。細胞外マトリックスの3次元構造を維持したまま細胞を除去することに世界で初めて成功したという。次に、この脱細胞化子宮マトリックス(DUM)に、ラットの子宮から得られた細胞と、ラットの骨髄から得られた間葉系幹細胞を注入して灌流培養を行ったところ、培養3日後に子宮内膜様組織が再構築されていることを確認できたとしている。
さらに部分切除したラット子宮角の再生にDUMが利用できるか検証するため、開腹のみで何も施さなかった群(CO)、子宮角の一部を切除しDUMを被覆した群(ER)、子宮角の一部を切除しそのままにした群(EO)の3群を設定。術後28日目に子宮摘出し、切片を作成してマッソントリクローム染色を行った。
すると、ERにおいてDUMに再細胞化が起こり、EOと比較して子宮組織の再生が促進されていること、上皮の再生も良好に進んでいることが観察されたという。また術後28日目からオスのラットと交配を行い、妊娠後期に子宮を摘出して胎児の有無などを確認したところ、子宮角あたりの妊娠率および平均胎児重量は、COとERでほぼ同等であり、EOで有意に低い結果となった。これにより、EOに比べERの子宮内環境が良好であることが示唆されたとしている。
今後の臨床応用を考える上では、子宮欠損などのケースに免疫拒絶反応の心配なく子宮全体を再構築するために、患者自身に由来する幹細胞を子宮細胞へ分化させて用いる必要があるプレスリリースでは、iPS細胞や間葉系幹細胞をこの脱細胞化・再細胞化システムに応用させて、同研究をさらに進歩させていきたいとしている。(紫音 裕)
▼外部リンク
・慶應義塾大学医学部 プレスリリース