FABP3、5、7に着目した研究により
独立行政法人理化学研究所は7月14日、統合失調症や自閉症といった精神疾患の発症に脂肪酸を運搬する脂肪酸結合タンパク質(FABP)が関与する可能性があること、患者からFABPをつくる遺伝子に変異がある症例を発見したことを発表した。
画像はプレスリリースより
この研究結果は、理研脳科学総合研究センター分子精神科学研究チームの島本知英研修生(お茶の水女子大学大学院生)、大西哲生研究員、吉川武男チームリーダー、山口大学の大和田祐二教授、浜松医科大学の森則夫教授らの共同研究グループによるもの。
FABPは10種類以上の近縁タンパク質の総称で、共同研究グループは過去にFABP7を作るFABP7遺伝子が統合失調症の原因遺伝子のひとつであることを明らかにしている。今回の研究ではFABP7に加え、ヒトの脳において発現が見られるFABP3、FABP5にも着目し、統合失調症との遺伝的・臨床的関連性が報告されている自閉症との関係を調査した。
8種類の遺伝子変異を発見
共同研究グループは、統合失調症と自閉症の患者の死後脳や生存している統合失調症の患者の血液細胞を用いて、3種のFABP遺伝子の発現量を、発症していない人と比較。その結果、FABP7の発現量が統合失調症と自閉症の両方の死後脳で上昇していることが判明した。これにより、FABP7が2つの疾患の発症に共通するメカニズムに関わる可能性が示唆されたという。また、生存している統合失調症患者の血液細胞ではFABP5の発現量が低下していたことから、FABP5が統合失調症の診断において有力なバイオマーカーなる可能性が示されたとしている。
続いて統合失調症患者2,097人と自閉症患者316人のサンプルを用いて、FABPの機能異常を起こす遺伝子変異があるか調べたところ、8種類の変異を発見。この結果から、変異を持つ患者では、脳で働くFABPの量や質が変化し、脂肪酸の代謝や働きに影響を与えると考えられるという。
さらに、これらの遺伝子を破壊したマウスで行動試験を実施したところ、FABP3やFABP7を破壊したマウスに、統合失調症や自閉症においてみられる行動の特徴と一致する変化が見とめられ、ヒトにおいてもFABP3やFABP7の機能不全が精神疾患につながる可能性が高いことが示されたとしている。
信頼性の高いバイオマーカーの開発につながる可能性
今回の発見には、統合失調症や自閉症などの精神疾患の診断に用いる信頼性の高いバイオマーカーの開発につながる可能性がある。また、妊娠期や乳児期・幼児期に適切な量と質の脂肪酸を摂取することや、FABP遺伝子の変異など遺伝的な要因によって引き起こされる脂肪酸機能不全でも、それを補う適切な量と質の脂肪酸を摂取することが、予防につながる可能性が示された。
今後、どの脂肪酸をどのくらいの量、期間・時期に摂取すれば症状を軽減できるのか明らかにすることにより、新たな治療法の確立につながると期待される。(小林 周)
▼外部リンク
・独立行政法人理化学研究所 プレスリリース