厚生労働省政策統括官付情報政策担当参事官室室長補佐の中安一幸氏は、「医療データの社会基盤が整備されれば、個人の医療・健康情報を収集・保存し活用できるPHR(Personal Health Records)や遠隔医療を実現できる」と強調。そのためには国策として、▽医療情報の電子化・標準化▽個人情報の取り扱いを定めた上での2次的なデータの利活用▽個人の健康状況を長期に追跡できるIDコードの作成――の3点に取り組む必要性を挙げた。
プライバシー法制やID法については、国民や医療機関など社会的な合意形成が必要としながらも、マイナンバー法成立で「一歩進んだ」との認識を示し、「データが使えないと、医療・製薬は遅れてしまう」との私見を述べた。
北里大学薬学部臨床医学教授の竹内正弘氏は、現在の臨床試験について、“ぬるま湯”と表現した。「臨床試験に参加した被験者全体を見ると、効いている患者よりも、効いていない患者が多い」として、臨床試験におけるリスクベネフィット評価の問題点を指摘した。「効いていない患者に対して、どういう治療を行えば効果が出るかを考えて、臨床試験を進めていくアプローチが必要になる」と語った。
具体的には、「効いている患者、効いていない患者を同定するために、追加のサブ解析を実施するのではなく、これまで実施された類薬の臨床試験結果などビッグデータをうまく活用しながら、バイオマーカー、サロゲートマーカーを見つけていくべき」と述べ、外部データを解析する手法を提唱した。
製薬企業の立場からアストラゼネカ日本法人のクリニカルサイエンス統括部長の大野木浩氏は、「限られた患者を対象とした臨床試験では得られる情報が少なく、リアルワールド(実臨床)データを積極的に活用する動きが進んでいる」と述べた。海外では、積極的に実臨床データを活用し、脳梗塞と透析患者を対象とした二つの大規模臨床試験では、各国での実臨床の後ろ向き研究を同時進行させ、データを外挿している事例を紹介した。
一方、国内では論文データからの引用や、専門医への聞き取り調査を通じて分析を行うのにとどまるという。大野木氏は、「国内では民間の医療データベースのみしか利用できず、医療データベース整備が十分ではない」とした上で、「外部の医療データベースが構築される前に、社内に専門組織を構築し、現在利用可能なデータベースからどういうことができるかを探っていくのも必要ではないか」との方向性を語った。