性質に大きな違いがあるヒトiPS細胞とマウスiPS細胞
独立行政法人理化学研究所は6月24日、「CCL2」というたんぱく質がヒトiPS細胞の分化多能性を維持・向上させることを発見し、その機能に関与する遺伝子群の存在を明らかにしたことを発表した。
画像はプレスリリースより
この研究成果は、理研ライフサイエンス基盤研究センター 機能ゲノム解析部門の鈴木治和グループディレクター、長谷川由紀副チームリーダーら研究グループによるもの。英科学雑誌「Scientific Reports」オンライン版に同日付で掲載されている。
ヒトiPS細胞とマウスiPS細胞には、その性質に大きな違いがあり、マウスiPS細胞は分化多能性が高く、培養液中に白血病阻止因子(LIF)を添加することで、幹細胞の培養条件を整えるフィーダー細胞を使わずに、分化多能性を維持したまま培養可能である。その一方、ヒトiPS細胞では、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を添加し、さらにフィーダー細胞上で培養しないと分化多能性が失われてしまう。
低酸素の状態に置かれた際に働く遺伝子群も活性化
これまで同研究グループはマウスiPS/ES細胞で、フィーダー細胞の有無によって発現に違いがあった遺伝子を調べ、CCL2を見いだしており、CCL2を培地に添加すると分化多能性が向上することを確認していたという。
そこで今回の研究では、ヒトiPS細胞の培養においてbFGFの代わりにCCL2を添加したところ、bFGFと比べて多能性マーカー遺伝子の発現が顕著に上昇したという。次にCCL2添加下またはbFGF添加下でそれぞれ培養したヒトiPS細胞での遺伝子発現の変化を、理研が開発した「CAGE法(Cap Analysis of Gene Expression)」で詳しく調べた。
その結果、CCL2は多能性マーカー遺伝子だけでなく、細胞が低酸素の状態に置かれた際に働く遺伝子群も活性化させていることが判明したとしている。低酸素環境では、iPS/ES細胞の分化が抑制されるため、CCL2は低酸素に対する細胞応答と似た状態を誘導し、分化多能性の維持・向上に関わる可能性が示唆されたという。
さらに、CCL2とLIFをそれぞれプロテインビーズに取り込ませ、培養に使用することで、フィーダー細胞なしで分化多能性を維持したまま、ヒトiPS細胞の培養に成功したとしている。
今後、研究を進めることにより、現時点ではiPS細胞からの分化誘導効率がそれほど高くない標的細胞も、CCL2が持つ分化多能性の維持・向上作用を利用することにより、短時間・高効率に作成できるようになると期待される。再生医療の実用化が進んでいる昨今、フィーダー細胞など異種由来の成分を用いず、安定してヒトiPS細胞を培養する方法の確立が求められる。(QLifePro編集部)
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・独立行政法人理化学研究所 プレスリリース