亀井美和子氏(日本大学薬学部教授)は、米国での様々な先行事例を紹介した。
その一つは、ノースカロライナ州の地域の薬剤師が企画したアッシュビルプロジェクト。1997年から始まった。通常の服薬指導とは別に薬剤師が患者に面談し、カウンセリングをべースに積極的な薬物治療管理を行う。このかかわりによって、糖尿病の治療指標の一つであるHbA1c値は1年間で有意に低下した。また、薬剤費は増えたが、入院や緊急受診回数が減った結果、総医療費は減少した。糖尿病を皮切りにその対象は気管支喘息、高血圧、脂質代謝異常症、うつ病にも拡大。このビジネスモデルが全米に広がった。
亀井氏はこのほか、米国の薬剤師会が中心になって実施したプロジェクトIMPACTを提示した。これは、薬局薬剤師が、糖尿病など各種慢性疾患患者の自己管理能力を高めることを目的に、患者個々の目標設定を支援し、その目標を達成するために面談など様々な介入を実施するもの。
また、米国の公的な医療保険、メディケア・パートDで実施されているMTMプログラムでは、高齢者の薬物療法を最適化することを目的に、薬局薬剤師が通常の調剤とは独立したカウンセリングを行って、アドヒアランス向上、相互作用チェック、副作用削減などの役割を担っている。薬局への支払い金額よりも、薬剤師の関与による問題発生回避の経済効果の方が大きいことが分かっているという。
亀井氏は「このように、ある薬局での取り組みが地域に広がり、最終的には全国的な薬局サービスになっていく。実践例があってそれが研究成果として提示され、報酬が設定されて、ビジネスモデルとして展開していった」と解説。治療への薬剤師の効果的なかかわり方が明らかになったり、教育・研修プログラムが構築されたりするなど「臨床研究を行うことで報酬以外の成果もある」と語った。
木内祐二氏(昭和大学薬学部教授)は「最近は増えてきたものの、薬局薬剤師の研究の報告数や研究テーマ、成果は限られている印象がある」と指摘。「研究テーマは身近にはないと思っている方が多いと思うが、調剤業務やプライマリケア、セルフメディケーション、在宅医療、地域の保健衛生など日常業務の中での疑問や課題が全て研究テーマになる」と強調した。
データ解析や倫理委員会での審査手続きなど薬局だけで取り組みづらい事項は「ぜひ大学と連携、協働して、まずは研究を1回やってみて、それに慣れて、将来の医療につながる研究をしてもらいたい」と呼びかけた。
恩田光子氏(大阪薬科大学薬学部准教授)は「患者本位のアウトカムを明確に意識し、仕事の方法や組み立てを毎日考えて業務を実施し、実際に患者に役立っているのかを客観的に確かめていくことは、究極的には臨床研究そのもの」と強調。「それぞれの仕事が費用に見合った効果を出しているのかという視点で、自分たちの仕事のありようを臨床研究を通して検証していくことがますます必要になる」と話した。