ASD診断に関わらずバイオマーカーとなる可能性
名古屋大学は6月18日、同大、福井大学、金沢大学などからなる共同研究チームが自閉症スペクトラム障害(ASD)の青年期男性は、定型発達群と比べ安静状態での脳活動(DMN)の機能的連結が弱いことが判明したと発表した。
画像はプレスリリースより
また連結の強さは、自閉症スペクトラム傾向と相関を示したといい、DMNの脳活動パターンが、ASD診断に関わらず自閉症スペクトラム傾向のバイオマーカーとなる可能性があるという。この研究成果は6月11日付で科学雑誌「Molecular Autism」に掲載された。
連続体としての自閉症スペクトラム傾向をMRIで研究
重度の自閉症から定型発達まで連続して存在する自閉症スペクトラム傾向に注目した脳画像研究は未だ少ない。そこで研究チームは、ASDを持つ人と定型発達の人の安静状態での脳機能をrs-fMRIで撮影し、DMNの脳領域間の機能的連結を群間比較したほか、診断の有無に関わらず被験者のDMNの機能的連結の強さと自閉症スペクトラム指数(AQ)との関連を探った。
知的障害を有さないASD青年期男性被験者19人と、年齢および知能指数を一致させた定型発達被験者21人について、安静状態での機能的脳活動をMRIで測定。各被験者の画像を専用コンピュータソフトで解析し、DMNの中枢領域である内側前頭前野(MPFC)と後部帯状回(PCC)が機能的連結をしている脳領域の大きさと連結の強さを調べた。
するとASD群の方が、定型発達群と比較してMPFCとPCCの機能的連結がある脳領域は小さく、連結も弱いことが分かった。さらに両群の違いが見られた脳領域の脳活動とAQは、負の相関関係があり、他にもASD群、定型発達群の各群で、AQと負の相関関係を示す領域が複数確認されたという。
これらから、ASD群は社会的行動に関与するDMNの脳領域間の機能的連結が弱く、その強さは自閉症スペクトラム傾向と関連していることが見出された。
手法として簡便、早期治療の手がかりとしても期待
研究チームでは、今回の結果は知的障害を有さない青年期男性に限定したものであり、今後女性や幼少児、知的障害を有する人など、他の条件下での検討が必要としている。
方法が確立されれば、安静状態でのMR撮影という簡便な手法で、幅広い被験者の脳機能活動を検討でき、自閉症スペクトラム傾向の探求が可能となる。その結果から、早期発見・早期治療の手がかりを得ることや、薬剤投与など治療後の脳科学的指標として役立てうることも考えられ、今後が期待される。(紫音 裕)
▼外部リンク
・福井大学/名古屋大学/金沢大学/脳科学研究戦略推進プログラム 共同プレスリリース
・Default mode network in young male adults with autism spectrum disorder: relationship with autism spectrum traits