運動学習などを担うプルキンエ細胞の働きの理解に貢献
独立行政法人理化学研究所は6月6日、神経細胞で働くmRNAを網羅的に同定する新しい手法を確立し、小脳の「プルキンエ細胞」の部位特異的な転写物全体の解析を実現したと発表した。
画像はプレスリリースより
運動学習に関与する小脳のネットワークにおいて、唯一の出力神経細胞として中心的な役割を果たすとされるプルキンエ細胞は、他の細胞から信号を受け取る樹状突起が非常によく発達し、その入力量は平均的な神経細胞の約10倍といわれている。
しかし、これまでその特徴的な機能や形態を支える分子メカニズムの詳細は明らかになっておらず、プルキンエ細胞で作られるタンパク質を完全に網羅したカタログの作成が待たれていた。
遺伝子改変動物を必要としない画期的な手法を確立
プルキンエ細胞の樹状突起で作られるタンパク質の解明によって、運動学習を可能にする分子メカニズムの理解が大きく進むと考えられているが、このタンパク質の解明には、「TRAP法」と呼ばれる方法が有効とされ、これには費用と時間のかかる遺伝子改変マウスの作製が必要だった。
そこで、研究グループは、特定の神経細胞に感染するウイルスを利用し、より迅速かつ安価で、遺伝子改変マウス以外の動物にも広く適用の可能性のある手法を確立したという。
この「改良版TRAP法」では、ラットのプルキンエ細胞の樹状突起や細胞体などの細胞内部位ごとに翻訳中のmRNAを回収し、理研が独自に開発した「CAGEscan法」によって、数千ものmRNA配列を高感度かつ定量的に読み出すことに成功した。
これらの手法で集めた配列データを解析することにより、世界で初めて、ラットのプルキンエ細胞で作られているタンパク質をほぼ網羅的に記述するカタログの作成に成功したという。このカタログでは、プルキンエ細胞内のどの部位で、どのタンパク質が作られているかが示されており、タンパク質の作られる場所が重要な現象の研究に貢献することが期待できる。
小脳のプルキンエ細胞の異常は、運動失調症を引き起こし、ある種の自閉症患者の脳ではプルキンエ細胞の減少や異常が確認されていることから、今回の研究成果がこうした疾患の研究に貢献し、将来的には治療法の開発につながっていく可能性も期待できるとしている。(浅見園子)
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独立行政法人理化学研究所 プレスリリース