医薬分業が進展するなかでの薬剤師の役割について提言
第8回日本ファーマシューティカルコミュニケーション学会(大会長:井手口直子・帝京平成大学薬学部教授)が5月25日都内で開催され、医薬分業が進展するなかでの薬剤師の役割について関係各方面の識者から提言が相次いだ。
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同学会のシンポジウム「患者、メディアとのコミュニケーション-生活者にもっと近づくために」では、がん患者会のNPO法人・支えあう会「α」副理事長の野田真由美氏が「がん患者はがあらゆる局面で様々な薬と付き合っている。抗がん剤に関するセミナーなどを実施すると、実に多くの患者が集まるが、そこで薬剤師が話題になることは残念ながらほとんどない」と、薬剤師の存在感の希薄さを説明。「是非とも薬剤に関する身近な専門家として私達患者の心強いサポーターであってほしい。お話ししやすい相談しやすい薬剤師が増えてくれたらうれしい」との期待を語った。
一方、同シンポジウムの薬剤師側シンポジストだった浅草薬剤師会会長の坂口眞弓氏は、同会会長就任時に自身が「地域に密着した顔の見える医療提供活動」を掲げ、自身が経営する薬局を通じて患者を交えた勉強会や小学生の薬剤師体験活動など推進してきたことを説明。その一方でまだ「薬剤師は袋詰めしているだけ」との批判があることなどを踏まえ、薬剤師側が各地域からより一層の情報発信力を示していく重要性を訴えた。
高齢化社会を乗り切るために薬剤師のチカラが不可欠
シンポジウム「まったなし、薬剤師の実績評価-今」(日本在宅薬学会との共催)にシンポジストとして出席した元厚生労働省政策統括官参事官・社会保障担当参事官室長で現総務省消防庁審議官の武田俊彦氏は、自身が2011年の日本薬局学会総会で、2010年度の調剤医療費約6兆円のうち技術料が約1兆5000億円と、薬剤師技術料が外科技術料総額を上回る状況を説明したことを引き合いに出すとともに、分業率上昇の中で門前薬局の存在が目立つようになった現状を指摘し、「現在に至るまで薬局、薬剤師の側から調剤報酬にふさわしい存在意義を証明できているのかは、はなはだ疑問に思っている」と批判。ただ、一方で現在の日本国内の医師約30万人とほぼ同数の約28万人の薬剤師を活用しなければ、「今後の高齢化社会を乗り切ることは不可能」との認識を示し、その点からは薬剤師にはかつてないほど大きな期待がもたれていると説明した。そのうえで「まずは医療財源への貢献と患者の薬物治療適正化の観点から、後発品促進と残薬管理に最低限は注力してほしい」と忠告した。
また、武田氏は、最近の医薬分業バッシングを受け、薬剤師業界内で特定のチェーン調剤グループ経営者の高額報酬のとばっちりを受けているとの声があることに言及。「こうした声は全く世の中のことを理解していない。処方箋1枚当たりのフィーはどこの薬局も同じで、そのような意識では薬剤師業界は良くならない。今こそ薬剤師に何が求められているかを考えるべき」と述べ、狭義の医薬分業を超えた大局観を薬剤師が持つ必要性があるとの認識を表明した。
さらに日本在宅薬学会理事長で医師の狭間研至氏は、医薬分業の急速な進展の中で薬剤師の社会的な立場や評価に大きな変化がない現状について「薬剤師の働き方のパラダイムに原因がある」と指摘。より具体的には現在の薬剤師による調剤業務の主体が処方箋通りの調剤を迅速かつ正確に行うことに終始しがちで、処方後の患者の症状変化などへの関与が薄い傾向があるとの認識を示した。そのうえで狭間氏は、薬剤師が薬学部で学んだ薬理学などの知識を生かして、薬剤処方後の患者変化を注視して医師への提案などを行う「薬学が医学に組み込まれる」処方提案の実践が必要であると語り、「これができれば医薬分業で期待される薬害防止や多剤併用といった薬物治療適正化に関わる問題のかなりの部分が解決できる」との見解を表明。さらに今後の高齢化社会の進展で慢性疾患患者が激増していく中で医師が診療できる患者数にはおのずと限界があるとして、薬剤師による専門性の高い関与というパラダイムシフトが必要であると述べた。(村上和巳)
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