公益社団法人日本脳卒中協会とバイエル薬品株式会社は5月28日、「心房細動による脳卒中を予防するプロジェクト」(TASK-AF: Take Action for StroKe prevention in Atrial Fibrillation)を共同事業として開始したと発表し、同日に記者説明会を行った。
日本脳卒中協会 事務局長・専務理事
中山博文氏
脳梗塞の約3割を占める心原性塞栓症は、寝たきりなど介護を要する重度の後遺症が残る割合が高く、患者本人とその家族だけでなく、社会的・経済的にも負担が大きい疾患だ。また、高齢になるほど発症頻度が高くなるため、高齢化が著しい日本においては、その予防が急務とされている。
同プロジェクトでは、心房細動患者の脳卒中予防についての現状と課題を明らかにし、行政・保険者・医療提供者などによる一体的な取り組みを促進することで、脳卒中に起因する社会的・経済的な負担の軽減を目指す。同プロジェクト実行委員会は、まず、具体的な取り組みのための提案をまとめた、「脳卒中予防への提言―心原性脳塞栓症の制圧を目指すために―」を、自治体や医療関係者に提出する予定。提言書では、「心房細動の早期発見」と「心房細動患者の適切な抗凝固療法の受療・継続」を2本の柱に、脳卒中予防への課題と提案が記されている。
心房細動の早期発見と、受診率向上における課題
心房細動の早期発見には心電図による診断が不可欠である。しかし、現状の地域健診では心房細動リスクの高い、高齢者に対しての心電図検査は医師が必要と認めた場合のみであるなど、選択的に行われている自治体がほとんどだという。
また、一般市民においては、心房細動があると脳梗塞を発症しやすいことや、心房細動による脳梗塞が抗凝固療法で予防できることを知らず、健診で心房細動を指摘されても受診に繋がらないケースが多いと考えられている。
登壇した中山博文氏(日本脳卒中協会 事務局長・専務理事)は、早期発見やその後の受診率向上のためには、国や自治体による高齢者の心電図検査実施のための環境整備、かかりつけ医の日常診療によるスクリーニングの促進、一般市民に対する心房細動の症状と脳梗塞予防の重要性についての啓発などが必要だと述べた。
適切な抗凝固療法を受けている患者は全体の半数程度
心房細動による脳卒中は、抗凝固療法により約6割が予防できるが、現状、適切な抗凝固療法を受けている心房細動患者は全体の半数程度でしかなく、治療の課題も指摘されている。また、不適切な抗凝固療法は、予防効果の低下により脳梗塞の発症や、出血などの副作用を生じるリスクが高くなる。
提言書では、適切な治療選択に向けた、かかりつけ医と循環器専門医間の医療連携の推進、服薬アドヒアランス向上のための患者への情報提供の推進などを挙げている。
今後は、提言書を踏まえたパイロットプログラムを秋田と伏見の2か所で実施。プログラムの効果を評価後、評価結果をもとに全国の関係者に啓発を行うことで、活動の全国展開をはかる予定としている。(QLifePro編集部)
▼外部リンク
・心房細動による脳卒中を予防するプロジェクト
・心房細動患者が安心して抗凝固療法を継続するために薬剤師が果たすべき役割とは
・抗凝固薬開発の歴史と新規経口抗凝固薬の展望