■不正相次ぐ研究環境改善も
臨床研究成果の系統的レビューを実施し、得られた科学的根拠に基づく医療の意思決定を目指す国際的な非営利団体「コクラン共同計画」は5月30日、日本支部を設立したと発表した。研究結果を網羅的に検索し、批判的に吟味するコクラン系統的レビューの作成支援や研修を手がけることにより、科学的根拠に基づいた医療と意思決定を浸透させる。日本で不正が相次ぐ臨床研究環境の改善にもつなげたい考えだ。
コクラン共同計画は、1992年に英国で設立された非営利団体で、政府や製薬企業から独立し、世界120カ国で3万4000人のボランティアが活動している。同じ研究を網羅的に検索し、その結果を吟味して得られた膨大なエビデンスを、医療や診療の意思決定に役立てる活動を行ってきた。
新たに設立された日本支部は、事務局を国立成育医療研究センターに置き、同センター研究所の森臨太郎政策科学部長、京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻の古川壽亮教授が共同代表を務める。
具体的な活動としては、コクラン系統的レビューの著者を増やしたり、研修やワークショップを実施するほか、系統的レビューの成果であるコクランライブラリの日本における利用促進を目指していく予定。これにより、根拠に基づく医療が浸透し、診療の質が向上することが期待され、医療者と患者の双方に確かな情報が共有、提供されると共に、利益相反管理を含めた適切な臨床研究の推進につながると見られている。
日本支部設立に合わせ来日し、記者会見したコクラン共同計画のマーク・ウィルソンCEOは、「日本は他国に比べて、エビデンスに基づく意思決定が普及していない。コクランの成果物を活用することで、医療者と患者が正しい意思決定ができるようになってほしい」と述べた。
その上で、日本で臨床研究不正が相次いでいることに言及。「研究不正やデータ改ざんは、製薬企業がデータを握っている限り起こり得る。誤った治療の意思決定が行われないようにするためには、研究者、製薬企業、市民が全てのデータを入手できるようにすべき」との考えを示した。日本の製薬企業に対しては、全ての臨床試験データが入手できるコクランの世界的なイニシアチブへの参加を促した。
また、「患者さんが情報を共有し、医療者と一緒に治療の意思決定を行うことが重要。日本支部の設立により、日本の患者さんがより多くの医療情報の提供を受け、治療選択に影響を与えるようになってほしい」と期待を語った。
森共同代表も、コクラン日本支部の設立が「臨床研究環境の改善のきっかけになる」と指摘。各研究を広く客観的な視点で評価する系統的レビューの過程で不正が発見されることもあるとし、「日本の医療界全体にEBMの考え方が浸透していくことで、状況は変わってくるのではないか」と述べた。
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