■薬剤師外来への展開視野に
東京女子医科大学病院は、ハイリスク薬の抗癌剤と免疫抑制剤について処方箋発行を院内に戻した。薬物療法の高度化を背景に、保険薬局において服薬指導を行う院外処方では患者の安全を十分に管理できないと判断。抗癌剤、免疫抑制剤の服用患者には、院内処方で副作用管理と指導を充実させる方針に転換した。今後、リスクの高いインスリンや抗凝固薬の処方も院内に切り替える予定。木村利美薬剤部長は、「単に院内に戻して薬価差益を出すことは、今の社会的ニーズに全く合っていない」と薬価差益狙いを否定。「ハイリスク薬については、保険薬局以上に質の高いファーマシューティカルケアを実践し、薬剤師外来の展開につなげていきたい」との考えを示す。
癌や移植の医療が高度化し、薬物療法も副作用に注意が必要な分子標的薬等が登場。外来化学療法や移植外来で十分な患者指導が求められるようになった。特に抗癌剤については、院外処方箋を受け取る保険薬局での指導が難しくなりつつあった。
実際、同病院薬剤部が近隣の保険薬局に実施したアンケート調査によると、抗癌剤のレジメンや有害事象を理解している人が半数以下にとどまった。そのため、病院側の提案で服薬指導チェックシート等を作成し、保険薬局で指導ができるよう薬薬連携を進めてきた。
木村氏は、「大学の門前薬局で処方箋を受けているのは6割で、それ以外の4割の患者については、どういう指導がされているか分からない。特殊な副作用の多い薬剤が出てきているので、有害事象のフォローをきちんとできないと、アドヒアランスが悪くなったり、薬物療法を中止せざるを得なくなる。そういう意味で考えると、院内で安全を管理していった方がいいのではないか」と話す。
今のところ、患者の希望を前提に、抗癌剤と免疫抑制剤の院内処方を進めている。
ただ、院内処方に戻すことには薬価差益目当てとの批判もある。同病院では、処方箋発行を院内に戻すに当たって、自動調剤機を導入する等の機械化を進め、薬剤師が本来の業務に専念できる体制を構築。薬剤部として、これを院内処方に踏み切る条件としたという。
木村氏は「以前のように薬だけ院内に戻して差益を出すということは、今の社会的ニーズに全く合っていない。やはり、院内で調剤するからには、院内でなければできない処方監査や指導等のファーマシューティカルケアを患者さんにしていかなければならない」との考えを強調する。
現在、同病院から出される院外処方箋の1~2%程度が院内処方に切り替わっている模様だ。糖尿病専門医、循環器専門医からの希望もあり、今後リスクの高いインスリン、新規抗凝固薬については、院内での患者指導、安全管理に着手していく考えだ。
例えば、新規抗凝固薬をめぐっては、脳梗塞患者等でアドヒアランスの悪化が再発につながるため、専門医からは「最初にしっかり指導してほしい」との考えが示されているという。そのため、ハイリスク薬の患者指導、安全管理は、院内で病棟薬剤師が一定のレベルを確保して行う必要があるとしている。
木村氏は「保険薬局は営利企業も参入しており、どうしても患者さんを獲得しようとしたり、利益を求める結果、どこに行っても同じ質の指導を受けることはできないと思う。最近は病棟でも重症度の高い患者さんが多く、薬物療法のマネジメントを行うには、医師が考えていることや病態を理解し、対等に話せて介入できるぐらい精通していなければできない」と述べ、病院と保険薬局の温度差を指摘する。
中長期的には、院内処方を通じて、薬剤師外来への展開につなげたい考えもある。「ハイリスク薬を院内に戻して、事前に薬の情報を抽出しておき、医師の診察につなげる流れにできればいい。これから病院薬剤師が大きな役割を担う方向になってくる」と見通す。
その上で、「本当に院内処方をしても恥ずかしくない、高いレベルのファーマシューティカルケアを提供する理想的な外来調剤を目指している。保険薬局も、本質的に何が必要なのか見直してほしい」と話している。