世界初の低結晶性リン酸オクタカルシウムを作用成分とした合成人工骨
東京大学は4月17日、同大大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻の鄭雄一教授らの研究グループが、優れた骨形成能力をもつ、移植手術が容易な人工骨の開発に成功したと発表した。
開発した合成人工骨について、スウェーデンのイエテボリ大学バイオマテリアル部門で成体のウシ由来の骨と比較試験で評価したところ、同等以上の骨形成能・癒合能・置換能を示すことを確認したという。
画像はプレスリリースより
開発された人工骨は、低結晶性リン酸オクタカルシウム(OCP)射出成型人工骨。OCPは特殊なリン酸カルシウムで、骨形成に最適な材料だが、これを加工して任意の形状をつくることが困難であるとされてきた。
今回、同研究グループは、CIM(セラミック・インジェクション・モールド)技術を用いることで、α−リン酸三カルシウム(α−TCP)を骨伝導能に優れた形状に造形し、OCP処理で再結晶化して物性を向上、合成人工骨として初めて高い骨形成能をもたせることに成功したという。
骨摘出移植などより負担の軽い移植が可能
現在流通する人工骨は、β−TCPか、焼結されたハイドロオキシアパタイトを主成分とするもの。これらは焼結処理を行うと、体内に移植しても不活性で、自骨との相互作用のない安定な骨材料になる一方で、骨形成能は低くなるという問題がある。このため欧米での骨移植ではより骨形成能の高い献体由来の他家骨が用いられるが、日本では骨バンクの整備が進んでおらず、自家骨の移植することが一般的である。そのため、今回開発されたOCP射出成型人工骨により、新しい骨移植が可能となると期待されている。
また、自家骨を移植する場合のような外科的負担の低減や、他家骨移植での倫理的問題、未知の感染症を発症する可能性があるといったリスク面での問題なども解決できるとしている。
OCP射出成型人工骨は、これまでに前臨床試験を完了し、治験を開始するための治験相談を行っている段階にある。国内外で、整形外科・歯科領域での具体的な販売パートナーが決まり次第、国内基幹病院で治験を開始する予定だという。今後の展開が期待される。(紫音 裕)
▼外部リンク
東京大学 プレスリリース
http://www.t.u-tokyo.ac.jp/pdf/2014/