ゲノムシーケンシングでRHOA遺伝子の変異を同定
東京大学と東京医科歯科大学は5月12日、難治性スキルス胃がんで、治療標的候補となるRHOA遺伝子の活性化変異を同定することに成功したと発表した。
この研究は、東京医科歯科大学・難治疾患研究所・ゲノム病理学分野の石川俊平教授と、東京大学先端科学技術センターゲノムサイエンス部門の油谷浩幸教授、大学院生の垣内美和子氏、および大学院医学研究科人体病理学病理診断学分野の深山正久教授らの研究グループによるもの。成果は、5月11日付で「Nature Genetics」オンライン版に掲載されている。
画像はプレスリリースより
胃がんの中でも強い浸潤傾向を持ち、線維組織の増殖増生を伴う硬い間質をもつタイプのスキルス胃がん(びまん性胃がん)は、きわめて悪性度が高い難治がんで、有効な分子標的治療薬もない。
一方、近年では次世代シーケンサーなどによるDNAシーケンシング技術により、特定のがんの分子標的治療薬開発が進んでいる。そこで同研究グループはスキルス胃がんに対して、がんシーケンシングを実施し、体細胞変異の全体像解明と有効な治療標的の探索を試みたという。
スキルス胃がんのがんゲノム概要が判明、治療薬の開発にも期待
同研究グループは、まずスキルス胃がん組織からゲノムDNAを取り出し、次世代シーケンサーを用いてゲノム中のエクソン部分における全配列を決定した。すると、スキルス胃がん87症例のうち22症例でRHOA遺伝子の体細胞変異が存在することが確認された。
RHOAは細胞運動や増殖制御に関わるシグナル分子であり、今回スキルス胃がん症例で確認された体細胞変異はRHOA分子の特定部位に集中していたという。そこで同研究グループは複数の検証実験を実施し、RHOA遺伝子の変異は、機能を獲得した活性化変異で、スキルス胃がんの重要な直接的原因となるドライバー変異といえる遺伝子変異であることを発見した。実際に、変異したRHOA遺伝子の機能を阻害することで、がん細胞の増殖を大幅に低下させられることも確認しているという。
この研究成果は、世界的にもがんの死亡原因で主要な位置を占める難治がんのスキルス胃がんに関し、そのがんゲノムの概要を世界に先駆けて明らかにした点で注目されるものだ。また、これまで有効な治療標的が無かったスキルス胃がんで、治療標的効果となるRHOA遺伝子変異というドライバー変異を同定した点でも意義深い。
発表では、今後は引き続きさらに症例数を増やした解析を行っていくほか、治療標的としての妥当性を詳しく検討する研究を進めていく予定。(紫音 裕)
▼外部リンク
東京大学/東京医科歯科大学 記者発表資料
http://www.u-tokyo.ac.jp/public/
Recurrent gain-of-function mutations of RHOA in diffuse-type gastric carcinoma
http://www.nature.com/ng/journal/vaop/ncurrent/