震災前のデータを分析
東北大学は5月2日、仙台市内の勤労者を対象に東日本大震災発生以前から行っていた健康調査のデータを解析し、震災発生前の身体状態や生活習慣が震災発生後の精神的ストレスと関連するとの研究結果を明らかにした。
同研究は東北大学大学院 医工学研究科 健康維持増進医工学分野の門間陽樹助教、永富良一教授のグループによって行われ、4月23日PLOS ONE(電子版)に掲載された。
画像はプレスリリースより
同研究では、災害の発生に影響を受けず、かつ、修正可能な身体機能や生活習慣に着目することで、震災発生前の身体機能、生活習慣および既往歴などが、震災発生5ヶ月後の精神的ストレスレベルと関連が認められるかについて検討した。
2010年に研究に同意した健診受診者1,185名を対象に生活習慣に関するアンケートと人口統計学的特性、既往歴、脚伸展パワーを評価。さらに、災害発生後の2011年、震災による精神的ストレスの指標として改訂版出来事インパクト尺度(IES-R)の評価を行い、震災による家屋被害、人的被害および仕事量の増減についてアンケートを実施した。
追跡不可能者や欠損値を除いた522名を対象に分析したところ、男性においては脚伸展パワーが高い人はIES-R得点は低く、毎日お酒を飲んでいた人および抑うつ傾向であった人はIES-R得点が高いという関連が認められたという。また、女性においては、抑うつ傾向があったものはIES-R得点が高い関連が認められ、高血圧であった場合もIES-R得点が高いという関連が認められたという。
日常生活の改善・維持により、災害に伴う精神的ストレス耐性獲得の可能性
これまで大規模自然災害時の心的外傷後ストレス障害(PTSD)の危険因子として被害状況や性別・精神疾患既往歴といった因子が特定されてきたが、これらの項目は災害が発生しないと評価できず、修正が困難もしくは不可能だった。
同研究は世界でも初めて、災害発生前の状態が災害発生後の精神的ストレスに影響を与え、日常の身体機能の維持・向上が災害時のメンタルヘルス悪化の一次予防策になる可能性を示すものだという。
災害の発生前に評価できる項目や修正可能な項目が災害後のPTSDに影響を与えると明らかにすることで、PTSDハイリスク者を災害発生前に把握し、日常生活の改善・維持により災害に伴う精神的ストレスに対する耐性を得ることができる可能性が示された。(浅見園子)
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