肺循環科大郷剛医長ら研究チームによって
国立循環器病研究センターは5月1日、同研究センターの肺循環科医長大郷剛氏らの研究チームが、手術適応外の慢性血栓塞栓性肺高血圧症に対して、バルーン肺動脈形成術(BPA)が肺高血圧症予後の右心室機能を改善させることを解明したと発表した。同研究の成果は、医学専門誌「European Respiratory Journal」オンライン版に掲載されている。
画像はプレスリリースより
これまでは手術適応外の慢性血栓塞栓性肺高血圧症に対して、近年ではBPAによる治療の有効性や安全性が示されてきている。
一方、肺高血圧症患者の予後を決定する重要な因子であり、症状や心不全改善の証明となる、右心室機能に対する改善効果は解明できていなかった。
カテーテル後平均肺動脈圧や平均右房圧など、血行動態が改善
研究グループは、2012年8月から2013年12月までの間にBPAを施行し、かつ、その前後で心臓MRIによる右室機能評価を行った、連続20症例について解析を実施。その結果、20例のうち死亡や重篤な肺水腫といった手技による問題となる合併症は認められず、カテーテル後平均肺動脈圧や平均右房圧、心拍出係数、肺血管抵抗、総肺抵抗など血行動態の改善、さらに心不全の状況を示す血中BNP値や心不全状態、6分間歩行距離といった臨床的指標の改善がみられたという。
また、心臓MRIでは右室容積や収縮能、重量、心室中隔の扁平化率といった右室機能が全て改善していることが明らかとなり、特に右室容積の改善は肺血管抵抗および心拍出係数と強い相関がみられたとしている。罹病期間が長い患者は心機能が低下しており、治療を行っても心臓機能が改善しない可能性も考えられたが、罹病期間が長い患者であってもBPAにより右心機能が改善することが示されたという。
右室機能は肺高血圧症の予後を決定する重要な因子であることから、今後はBPAの長期生命予後の証明が課題となる。また、BPAの効果が高い症例などでは未解明であり、症例数を増やした上でさらなる解析を行う必要があるとしている。BPAによる右室機能改善と合わせ、これらの研究を進めることで、肺高血圧症の病態理解が進むことが期待される。(白井蓮)
▼外部リンク
独立行政法人 国立循環器病研究センター プレスリリース
http://www.ncvc.go.jp/pr/release/