多能性細胞に未知の数千種類RNA、一部が幹細胞の多能性維持に関与
独立行政法人理化学研究所は4月29日、iPS細胞やES細胞といった多能性細胞の核内に、未知の数千種類におよぶRNAが発現していることを見出し、その一部が幹細胞に特徴的な多能性の維持に関与している可能性があることを発表した。
(画像はプレスリリースより)
理研ライフサイエンス技術基盤研究センター機能性ゲノム解析部門のピエロ・カルニンチ部門長らと、理研統合生命医科学研究センター、米Joint Genome Institute、およびデンマークコペンハーゲン大学との共同研究グループによる成果で、米科学誌「Nature Genetics」オンライン版に、現地時間の4月28日、掲載された。
生物学的機能が不明であったレトロトランスポゾン由来RNA
近年、細胞に存在するRNAには、タンパク質をコードしないncRNAが大量に含まれることが国際共同研究の成果により、明らかになっていた。ncRNAには、ゲノム上のレトロウイルスに由来する配列(レトロトランスポゾン)からの転写産物が多数含まれており、それらの一部は発生や細胞分化に関与していると示唆されていたが、大半のレトロトランスポゾン由来RNAの生物学的な機能は不明であった。
ES細胞やiPS細胞の研究では、幹細胞に特有の転写制御ネットワークについて膨大な知見が積み重ねられているが、多くはタンパク質をコードする遺伝子についてのものであり、ncRNAの役割はほとんど明らかになっていなかった。
転写産物「NASTs」が核内で多量に発現
そこで共同研究グループは、幹細胞におけるncRNAの役割を明かすため、iPS細胞やES細胞およびiPS細胞の樹立に用いられた細胞種について、CAGE法などにより網羅的な遺伝子発現解析を行った。その結果、これまで知られていなかった幹細胞特異的な転写産物「NASTs(Non-Annotated-Stem-Transcripts)」が核内で多量に発現していることを見出したという。
このNASTsは、ヒトとマウス合わせて1万種類以上存在し、およそ3分の1はレトロトランスポゾンの断片から転写が始まることが分かった。これらのレトロトランスポゾンは、細胞周期やクロマチン構造に関わる遺伝子の発現調節領域となっている可能性があり、また、NASTsの一部はiPS細胞での多能性マーカー遺伝子の発現を直接制御する機能を持つことが示唆されたとしている。
レトロトランスポゾン由来の配列は、その多くが機能を持たない「ジャンクDNA」と考えられていた。ES細胞やiPS細胞において、レトロトランスポゾンの断片が活性化し、転写されるRNAが多能性の維持に関与していることを示す今回の発見は、幹細胞においてncRNAが重要な役割を果たしていることを示唆する。
今後、NASTsの機能をさらに研究を重ねることで、幹細胞特有の転写制御ネットワークを解明し、iPS細胞から目的細胞を効率的に分化させる方法の開発などへの応用が期待される。(紫音 裕)
▼外部リンク
独立行政法人理化学研究所 プレスリリース
http://www.riken.jp/pr/press/2014/20140429_1/
Deep transcriptome profiling of mammalian stem cells supports a regulatory role for retrotransposons in pluripotency maintenance
http://www.nature.com/ng/journal/vaop/ncurrent/